蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>ルリヲ
(渡された浴衣は遊び心の無い落ち着いた物、少しばかり大きいそれを担ぐように身に纏う。落ち着きある灰色の浴衣と黒の帯は宛ら、蜘蛛。当初の衣類よりも何倍と己の種類を表現する様でからころと笑い声を。とは言え、着る事が上手とは言えずに襟をしどけなく合わせた胸元で腰元で結わいた帯がぐにゃっと曲がる。それでも見様見真似、推測の元に着用したのだ上出来と言えるだろう。そう、自画自賛の言葉を頭に浮かべると気持ちは何処か誇らしくなり満足げに両の口角を半円を描く様に釣り上げて。死んだ蛇のように脱ぎ捨てられた衣類を腕の中に拾えば残る体温も粘液も、全てを無くすように桶へ浮かべ。その桶はそのまま、特に端に寄せるなどと言った気配りは出来なく。足音を立てずに距離を詰める、静かに息をも殺して。真後ろまで身体を寄せれば布越しで有る事など遠慮せずに唐突と前触れ一つ感じさせぬままに彼の二の腕へ食らい付き、何も本当に食べるつもりは無いのだろう。単なる戯れの一つ、猫が悪戯と鼠を甚振り遊ぶだけの行為にも似た些細なもの。食べるつもりは無いが食べる事は出来るのだぞと脅しにもならない遊びの心。その癖力加減なんて出来やせず、噛り付く歯の力は何処までも強いのだから性質が悪い。時間がたてば噛み付いた箇所は青くなる事が予想できるほどにギリ…ギリ…と躊躇わずに力を込めて、くっきりと歯形を刻み込ませては纏う着物が唾液をほんのりと吸い込み色濃く変わる。咥えるように触れていた唇を離すと「 よぉくご覧になって。おじょうず? 」背に回っていたその身をひらりと翻し隣に並ばせ、上手に着れたろうと誇らしげに胸を張る。明確な言葉は無いが、その先に望むのは先程食らうた肉をもう一度。隣に並んだ彼は、今纏う着物の大きさからもわかる通りに背丈が有り、その大きさだけを見るならばきっともう食べられないと思うまでにこの胃袋を満たす事が出来るのだろうとぼんやり思う。着物の裾を指先でちょいと摘まむ様に手にすれば落ち着いた濃淡のそれを見せるように披露して「 ね_ぇ、立派な蜘蛛みたい 」くすりくすり、おっとりとした笑い声を息を漏らしながら漏らしては自らが蜘蛛の蟲であることを確り告げる訳ではないが、それを匂わせる様に言葉として蟲の名を上げて「ぽこりと腹を膨らませたいの」丸みを帯びたその虫を頭に描き、印象付ける為に女性にしては長く肉の薄みの無いその四肢を取り出す様に着物の袖口を捲り。)
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