蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>薫子
(粘液のせいで重なり二重に見えていた視界が鮮明になると視界の中に存在する育ての親と語る女性だけを見詰める。控えめで凛とした、強かさをその内に秘めるような美しさを持つ女性は慈愛の表情で何処までも優しそうで少しの危険を孕んでいるようにも見えた。頬に触れた指先は産まれたての己の拙い力ですら小枝のようにポッキリと折れてしまいそうな程に細すぎて、確かにその指は優しかったのにどう扱って良いかが解らず少しだけ困惑を。己を正面から見据えるその眼がまた窓に当たる雨の水滴のように輝き、少しの憂いを持つ為逸らす事など叶わずに。__そんな事を胸中に思っていると離れてしまった指先に思わず"嗚呼"と名残惜しむ声を音として上げ、自身よりも自身の事を知っているような口ぶりすら聞いていて一つと嫌な気がせずにコクリと頭を頷かせ。そこで、彼女を見詰めている間、呼吸一つ正常に出来ずに見惚れていたのだと言う事を頭がポーと茹だる様な感覚になったことで気が付いた。籠っていた酸素を勢いよく吸い込むと、こほ…こほ…と小さな咳込みに変わる。「僕はずっと、この音を聞いていました。__あなたの声も、」ザアザア…止むことを想像一つさせない雨音に耳を傾けて、座ったままポツリポツリと言葉を落とす。ゆったりと、決して生き急ぐことなく。あまりにも、雨の音が気を落ち着かせてくれるものだから「もう少し、あなたの声が聞きたい。__やっと顔を見て、僕の声を届けられるのだから」一方的に聞く声ではなく、自らの言葉を届ける事が出来る。それは些細な願望でも有り、弱弱しい呼吸を繰り返してから「___何か、食べるものを頂けますか」立ち上がり歩くことは情けないこの身に自信がなく、少し歩いて転倒でもしてしまえば見るからに細身の女性に死して尚、迷惑を掛ける事だろうと先を読んで我慢をし。座り、その帰りを黙って待つ。雛鳥の餌じゃあるまいに、どちらにせよ迷惑を掛けるに代わりの無い現状に対して眉尻を落とし、それでも食事をする気が有る、生きたいのだと言う旨を伝えて)
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