蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>黒鈴
ご存じも何も……おとおさま?(指を擦り合わせて弄ぶ月明りを反射させる粘液は見慣れてくれば綺麗にも思えてきたがどうしてくれようと悩む頭に相手の声はいささか遠く、それでも僅かに上擦って聞こえたその言葉には卵に名付けた声でも聞こえていたのだろうかとぼんやり思って口を開くも遮ったのはしっとりと滲む甘えるような声の聞き慣れない言葉。蟲卵をこうして孵したといって知識は女学生の噂話にしか知らず卵を孵した相手を親と呼ぶなんて事はたった今まで知る由もなく、聞き慣れなさと戸惑いに思わずそっくり復唱したが「おとおさま」を繰り返す声のままに蕩けた様子では気にもしていないらしく。辛うじて互いを遮っていた鳥籠は横に転がり、更に這い寄る相手を言われるまでもなく見つめれば顔から手までと手から遡って今度は輪郭、最後に顔に戻って伏目がちだが自分と同じかそれ以上にも思えるじっくりとした視線を寄越す赤い両目と目が合った気がすると見つめたまま頬杖を深くし。頭蓋の内側を撫でるような笑い声、頭を傾ける仕草、口元に添える指、唇の色まで見るほどに思うのは変わらないただ一つ。「君は、随分と大きいね」少女ではないという痛感。視線とは裏腹に独り言じみた淡々とした声で言えば緩慢に立ち上がり「大人しく待っているんだよ。そうだな……ああ、これで体でも拭いていれば、あっという間に戻るから」足音を抑えて相手の背後、殻だけが残され粘液で重たくなった掛け布団を退かしさほど濡れていない敷布団のシーツを剥がして相手の肩にかけ、手の平分開けたところに膝をつくと「良いね?」と軽く首を曲げて念を押し)
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