蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>月夜
( 他所の蟲卵の事は知らないが、うちの子は相当珍しいタイプなんじゃなかろうか。“死”によっぽどの執着があると見える。何が、彼をそこまでさせるのだろう。推し量るには、自分はまだこの男の事を知らなさ過ぎた。…博打じゃあないんだから。ハズレだのなんだのぼそぼそ喋っているこの男、実は相当な承認欲求があると見える。自分を、生きる事を肯定されたい性なのだろうと客観的に推測しては、蛇口を閉じ桶に溜まった水に片手を浸した。―――ゆらり。真剣な目付きで振り返って、冷水でびしゃびしゃになった手をその細い首に当てがう。「…アタリハズレを判断するのは、お前側じゃないと思うけど。蟲ってのは、小汚くていいんだよ。お前は小汚くあれば良い。猫を殺してどう思った?…二匹鳴いていただろう、両方見つけて、喰った?一匹だけ?何にせよ酷な事をしたね。喰いたいと思って喰ったなら、あの尊い犠牲の分まで生きろ!…本当に親不孝者だな。」ゆっくりと、それでも力強く言い放つ。それがお前の罪だろう、化け物が受ける罰だろう。…突き出された顔をぼんやり眺め、接吻待ちの女の様だと馬鹿げた考えが脳裏を過る。頭は案外冷静らしい。これで首を絞めろとでも言いたげに細く捩じられた手拭いを優しい手つきで受け取ると、今度は屈託のない笑みを浮かべて見せた。面倒な男だ、それでも何故だか、簡単に死なせてやりたくは無いのだ。…同じくらいの背格好、なのだろうが丸まった背筋のせいで少し下にある彼の額にこつ、と軽く額を当てる。「頬、痛かったろう。手拭いってのは拭く為にあるんだ、わかるね。」なんて極めて優しい口調で語りかけると、捩じれが解けた手拭いを、己のせいで再度濡れてしまった細首にそっと掛けてやった。 )
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