蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>雪呼
__(周囲を見渡しても見つからぬその姿にぎり、ぎり…と堪えるように下唇に歯を立てて。名を呼んだ、初めて見つけた女の名を呼ぼうと思った。口を開いた所でその名を知らない事に気が付いてぐぐ、と言葉を綴れず押し黙る。パッパと手の平を叩き汚れを落としてからその姿を探してから、先程は我を失う様に一目散に来た道を合っているか、どうであろうか、と不安すら抱えながら戻って来て。膨れ上がった猫は肉を削がれて萎んでしまった、腹にずしり…と重石のように溜まる満腹感が気を良い物にして。進ませる足の力強さは孵化したてと比べると非常に確りと安定感を帯び、先程よりも一層と足音が湿っているのは裸足の裏に血液が染み着いたからか、ペタリベタリと少しずつ足音を大きくさせて廊下を進み。「何処に、__砂乱の事を嫌いになってしまったか」暗闇は未だ少し歩きづらい、慣れない目玉は少しだけ不安を煽るのだ。噛み締めていた下唇を自由にすれば姿が見えない不安から山を描く様に吊り上がる眉を少しだけ垂らし、キョロ、キョロ、と哀れな迷い子の如く室内を徘徊し。偶然、入り込んだ和室、そこに居たのは寝たきりの彼女の母親ではない。広い部屋に似つかわしくなく、隅っこにて何かに怯えているのか体を小さくし、座り込んでいるその姿を見つけると雨漏りの如く暗くなっていた表情は明るく笑みが取り戻されて。「お前がいないから、俺はとても心配したのだ。__良かった、よかった」見つけた事で浮かんでいた不安は姿を消して、鋭い犬歯を見せるように明るく笑顔を浮かべると座り込む彼女の傍にしゃがみ込み「名を教えておくれ。お前の名を呼びたくとも、俺は未だ知らぬのだ」再び見つけた事を喜び、喜々と弾む声で、それでいて呼べなかったことを悔やむ様に少しだけ不貞腐れを見せるそんな雰囲気で名を問いかけて。畳の落ち着いた香りがする和室には不釣り合いの、生臭き匂いを体に纏わり付かせて浮かべる表情は懐っこく、黒の髪が彼女の体を伝う様、その瞳が自分の事を捕らえる様、困惑すら滲ませる表情の全てを真直ぐに捉えて)
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