蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>朝陽
(腹を痛めていない、育ての親、持ち上げられる単語を受け止めては父と子と言うには違和の有る間柄を探り。拙い情報は力にならないが、何より"月夜"と己に与えられた確かな名をいとも自然に、何の躊躇いを持つことも無く彼の言葉として上げられれば先の間柄を疑う事等もう微塵と見えず。目の前の彼、蟲卵に名を付け話を語りかけた人物であると認識をして。それが間接的にであれ、親で違いないと理解を示すと逆らい反抗するそぶりを見せず。続けられる指示、ぼんやりと虚ろ眼で蛇口を見詰め頼りない腕をヌルリと伸ばし警戒を持ちながら触れて。手の平の体温を急激に下げる鉄の冷たさに触れた手を直ぐに引っ込めて、己の手を守る様にもう片方の手で自身の手を握り締め「__冷たい、」シン、と静まり返る静寂の中掠る声で呟いて。再び腕を伸ばせば同様に蛇口を捻り、溢れるように水が出てきたのを数秒見てからドロドロの手を水に浴びせて。凍るほどに冷たく痛い、手の平の汚れを拭い取ってから腕、顔、とベタ付きを流し始え、蟲卵の粘着きも同時にそこで落とすと余りの冷たさに顔色は一層と悪い物に変り、カチカチと奥歯が震え音を鳴らし__それでも尚、生きていると言う事実が重たく圧しかかり。満たされる腹は生きたかった動物の明日を犠牲にしたもの、胸奥で燻ぶり目の前がドンヨリ暗くなる。声は絶え絶えと音を上げる事が出来ず、ズルズルと身体を引き摺り蛇口の水を出したまま座り込み。己の両手を首へ這わせると、先程猫にしたのと同様に力を込めて。指に力が籠ると同時に息苦しさが込み上げて、酸欠気味の頭はそれが心地良いと首を脈打つドクンドクンとの感覚だけが安堵を与え。目の前が眩み、座り込むことすら敵わなくなるとその体を地面に倒し「___ヒュ、」意識が途切れかけたその一瞬で堪えることできず手の平の力を抜くと冷たい酸素を吸い込んで。倒れたまま目玉を回すとグルリと部屋内を見渡して、己の名を呼んだ彼は何処か。それだけを思いつつ音を頼りに耳を澄ませて)
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