蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>月夜
( 極めて静かな食事だったように思う。案外狩りの才能があるんじゃないか、なんて小馬鹿にしたように賞賛しつつ、すぐそこを餌が歩いている状態で窓を蹴破らなかった行儀の良さを褒めてやろうと思っていた。…ひた、ひた。食事を終えた化け物の引き摺る様な足音を聞き、ゆらりと立ち上がって振り返る。―――血塗れの土塗れ。羽こそ消えているものの、声を荒げて咎める気にもなれない程汚れた格好でふらふらと戻ってきた男をひきつった顔で見やると、探るように静かに語るその声を何とか黙って聞いていた。「…腹を痛めた覚えは無いけどね。育ての親を自称したって良い位には、手を掛けてやったと思うよ。」と誕生の日を忘れ外出していた事実等素知らぬ風に返答し、置いたままだった荷物を持っては背を丸めて立つ彼の横をすり抜け洗面所へ向かって歩き出し。「おいで月夜、食事は汚さず終えるよう心がけるものだよ。次があったら気を付けなさい。」なんて振り返らずに声を掛け目的地へと辿り着くと、当時の普及率は20%程であったとされる水道の蛇口を顎で示して。「手ぬぐいと着替えを持ってきてやるから、それを捻って汚れを落とす。良いね。」と子供に聞かせるように言い放つと、ぱたぱたと自室へ向かって踵を返した。ぱっと離した手。どさりと落ちた荷物と共に疲れも抜け落ちてくれるなんて事は無く、ふっと小さく息を吐く。短時間の間で起こった怒涛の出来事をばたばたと頭の中で再生すると、化け物を拾って、あろう事か孵してしまったという実感が今更じわりと湧いてきて。粘液塗れの空き部屋も掃除しなくちゃいけないな、なんて案外冷静に今後の予定を立てては、着替えを持っていく途中だったんだと頭を振り、大きめの手ぬぐいと適当な着流しを手に部屋を出て。 )
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