蟲 2016-11-26 12:01:37 |
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>薫子
(殻を一枚隔てた先に何が有るのかは言葉通りの未知であり、視力の無い蟲卵に一つ二つと送られるのは外から降り注ぐ言の葉ばかり。宛ら雨音のように優しく、時に痛い程に寒さを訴えるその言葉が白雨という存在にとって全ての世界だったのだと思い返す。ゆっくりと落ち着く間もなく、甲斐甲斐しく己の為にあれも、これも、と動いてくれる女性の声が今も変わらずに白雨と言う存在の全てであると物語り。渡された浴衣に腕を通すと布に染み付いた誰ともわからない匂いに蛇が絡みつくほどの醜い嫉妬をぞわりと覚え。こんな感情など、教えられていないのだから不要な物と不慣れな手の動かしで浴衣を着用し己に言い聞かせる。襖越しの声は、声が聞こえるのにその姿が見えぬと蟲卵の頃を思い出させて歯痒く、居心地の悪さに変わり思わずその身をすうと立たせる。静かな動きで襖へ近づけば迎え入れるように先に開いてから「__どうでしょう、僕も案外捨てたもんじゃない。かな、」渡された浴衣を纏うその姿を披露し、冗句めかした声色で言葉を一つ。慣れない冗句は口にするだけで聊か照れくさく、羞恥を掻き消す様にくすくすと小さい笑い声を落としては彼女からの反応を伺う様に少しだけ瞳を伏せて。ソロリと指先を這わせれば己の頬を指先で数回掻き、彼女の姿が見えただけで無条件の安堵を得るのだから仕方がないと下唇をきりり、と少しだけ噛み締め。「薫子さん、何から何までして貰ったのに。図々しくも僕は未だ我儘を言いたいのです。__今夜は雨雲が何処かへ出向くまで僕の傍にいてはくれませんか?」再び唇を開くと眉尻を落としながら何とも控えめな声色で、指して口にする内容はずけずけと。大かた寝間着だろうか、着替えを済ませた彼女はこのまま自分と離れてしまうかもしれないと浮かぶ不安に堪らずと視線をジと送り。細い体に触れるのは勇気が必要で、その勇気は自分にはまだ足らず。だからこそ強請る為に控えめと彼女の袖口に人差し指と親指を触れさせて)
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