星瀬恋歌 2025-03-01 19:22:26 |
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続き
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「幽霊、ねぇ……」
翔太はポケットに手を突っ込みながら、半分呆れたように呟いた。
怜花はおそるおそる頷く。
「うん……たぶん、そうなの」
「“たぶん”ってなんだよ。はっきりしろ」
「だって、さっき自分でも気づいたばっかりで……」
「……はぁ。マジで言ってんのかよ」
翔太はため息をつき、スマホを取り出した。
「じゃあ試してみるか。鏡代わりにこれ使え」
怜花が画面を覗き込む。
そこには翔太の顔と、後ろの壁しか映っていない。
怜花の姿は――どこにもなかった。
「……あれ?」
怜花は首を傾げた。
翔太は口の端を引きつらせる。
「おいおい、ホラーかよ。ちゃんと顔出せよ」
「出してるよ!」
「出てねぇんだよ、これ見ろ。完全に背景と一体化してる」
翔太はスマホを左右に振りながら、画面を覗き込んで眉をひそめた。
「お前……透明人間系か?」
「えっ、違うよ! そんなハイテクじゃないと思う!」
「じゃあやっぱり幽霊じゃねぇか」
「う……まぁ、そう、なのかも……」
怜花は少し落ち込んで肩を落とした。
それを見た翔太は、なぜか目を逸らし、咳払いした。
「……まあ、いきなり現実突きつけられても、きついよな」
「うん。でも、翔太くんが見えるから、少し安心したよ」
「……誰が“くん”だ。呼び捨てでいい」
「えっ……じゃあ、翔太」
名前を呼ばれた瞬間、翔太の碧い瞳が一瞬だけ揺れた。
怜花はその変化に気づかず、ふわりと笑った。
「ねぇ翔太。私、なんであなたには見えるんだろうね?」
翔太は肩をすくめた。
「知るか。クソ、面倒なモンに関わっちまった」
「え、友達になってくれるんじゃないの?」
「誰がそんなこと言った。幻聴にも程があるぞ」
「え、違うの?」
「……はぁ。ま、勝手にしろ。ついてくんなとは言わねぇ」
怜花はぱっと顔を明るくした。
翔太はその笑顔を見て、思わず視線を逸らす。
「まったく……幽霊のくせに、やけに騒がしいやつだ」
「ふふっ。幽霊だって、おしゃべりしてもいいでしょ?」
路地の出口に、街の灯りが滲みはじめる。
冷たい風の中で、翔太の吐息と、怜花の存在の気配が並んでいた。
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