星瀬恋歌 2025-03-01 19:22:26 |
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私も書きたくなったので投下しようと思います。単発です。
もし不快に思われたら消してください。
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風が、やさしく頬を撫でた。
青い小さな花が、一面に広がっている。まるで空が地面に落ちてきたみたいに、視界のすべてが淡い水色で染まっていた。
怜花はゆっくりと上体を起こした。
どこだろう、ここは。どうして、自分はここにいるのだろう。
――思い出せない。
不思議なものだ。自分の名前だけは憶えている。「怜花(れいか)」と。けれど、それ以外の記憶は霞のように掴めない。
家も、友達も、昨日のことさえも。
立ち上がると、足元の勿忘草がふわりと揺れた。
その瞬間、彼女の影が地面に映らないことに気づく。
胸の奥が、ひやりと冷たくなった。
影がない――おかしい。それは、ただの奇妙さではなく、なにか決定的に「この世界に属していない」証拠のような気がした。
風がまた吹く。勿忘草が波のように揺れ、その隙間から、古びた看板が顔を出した。
「忘れ野原(わすれのはら)」――掠れた文字が、夕暮れの光に浮かぶ。
怜花は呟いた。
「……こんな場所、あったっけ」
その声は、風に溶けるように消えていった。
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