匿名さん 2024-12-07 14:41:27 |
|
通報 |
( 軽く手中で傾けたグラスの中に、夜空を切り取った白銀の球体がゆらゆらと揺蕩う。人気のないテラスへ降り注ぐ淡い月光が頬を撫で、それと同色の揺らめきを湛えた瞳を緩やかに細めて。海の魔女が姿を現した事で最大の懸念は既に払われたものの、はたして自身の待ち人は訪れるだろうか。通常、王族が舞踏会でファーストダンスの誘いをかけるというのは大きな意味を持つ。それをあのような形で退ければ、気を悪くして当然、そうでなくとも一種の気まずさのようなものは残るだろう。そもそも、今宵の華々しき主役たる彼がテラスの一角になど気を払わないかもしれない。それでも、相手ならばもしやと思ってしまうのは懐かしい夢のせいか、アルコールによる高揚か。そんならしくもなく夢見がちな心の声へ応えるように、潮の香りを含んだ風が自身の波打つ髪を揺らし、薄布のドレスがふわりと広がって。──そっと、背後の待ち人へ振り返る一瞬の間際、口許へ描かれたのは密かな円弧。「 まぁ、アレックス様。ご心配をお掛けしてしまったかしら…… 」薄桃の髪を軽く手で抑えながら、あたかも純に驚いたかのような素振りの声音と共にゆるりと振り返って。しかし、すぐにくすくすと品の良い微笑を零す唇に指先を添えると、あの頃と変わらぬ純朴な貴方は再び罠にかかってしまったのだと明かし。親愛を孕んだ無礼と児戯の狭間にあるような言葉選びでもって、その心内へ踏み込んでみようと )けれど……ふふ、ごめんあそばせ。本当はこんな所にまで声をお掛けに来てくださるような、愛らしいお猫様を密かにお待ちしておりましたの。……〝先約〟の彼女は、無事に本来の相手方へ引き継ぎましたから。
| トピック検索 |