匿名さん 2024-12-07 14:41:27 |
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えぇ……喜んで。ふふ……、いつかのご恩は、これでお返しが出来ましたかしら。可憐にして不撓なる──共犯者様。( 迷い子のようだった面差しへ凛然と宿った光は、少女の輪郭を確りと自身の両の足で立ち上がる気高き女性へと彩った。如何な稀代の芸術家とて、彼女の内側から滲み出すこの高潔な美を写し取ることは叶うまい。思わずほうと魂を奪われていたのも束の間、ややあってふんわりと、心の底から自然に沸き出したような微笑が零れ。二人だけの秘密事を睦言さながらに小さく囁いて、相手の手をそっと引いたのも数歩のこと。──おかしい。傍らの彼女の気配が混じって、感性に狂いが生じているのだろうか。こちらが近付くまでもなく、むしろ向こうから距離を縮めているような……。心内で密かに積み上がった疑問の末、遂に入口付近の光景を前にして足が止まり。踊りや歓談に興じる瀟洒な貴族達の合間から、真っ直ぐにこちらへ歩を進めるその姿。思わず吃驚に目を見開き、口元を片手で覆って )……まぁ。
( 人を寄せ付けない黒のローブは脱ぎ捨てて、自身の心を覆う前髪は片側を後ろへ流して、奥底に決意を据えた双眸が隠れぬように。漆黒の正装はひどく着慣れないが、この華やかな社交の場に悪目立ちすることは無いだろう。人々の狭間を縫うように、迷う事なく突き進む革靴の先はたった一人の少女。否、少し見ない間に随分と大人びた彼女はもはや成熟した女性に他ならず、かつての幼気な印象を払拭する様はまるで別人のよう。けれど、己の冷え切ったこの胸を、長年諦念に浸した身を、忽ち沸騰する程の熱情に打ちのめす唯一の存在を違える筈はない。……何より、かつて彼女に施した秘術が芽吹き、今にも呪いとして熟さんとする異様な気配がその証左。そのまま真っ直ぐに相手の前へと進み出ると、静かに足を止めて視線を交錯させ。この不器用な唇は、美しい貴女を讃える巧みな言葉の一つも紡げはしないけれど。もう、自身の本当の心を晒す事を厭わない。彼女の眼前へ、揃えた手の平を上向きに差し出し──表舞台の盤上へと、再び己の駒を置いて )僕と、踊ってくれないか。──コーデリア。
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