トピ主 2024-07-26 06:44:45 |
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前日譚「新たなる脅威」
まあ…綺麗な麦畑ですねぇ。フフッ、こうして長閑な光景を見ていると…無性に壊したくなります。
やめておけ、グリムハルト。此度の任務が成功した暁にはこれらは全て我々のものだ。無為に壊したところで得はない。
(何処までも続く広大な麦畑の傍らを一輛の馬車が進む。窓から覗く圧巻の光景に、グラキエス帝国の軍人エルフリーデは感嘆を漏らした。眩い陽の光を反射して黄金色に輝く畑、汗を拭いながら黙々と作業に勤しむ農夫。なんとも長閑な光景を前にして、エルフリーデは抑え難い破壊衝動に駆られる。冗談めかしたような物言いで、しかし、覗き込むようにして窓に添えられた彼女の手にはドス黒く禍々しい魔力が蓄積されていく。見かねた同行者コンラッドは腕を組んだ姿勢で彼女を一瞥すると、言葉で制止した。帝国において弱肉強食は国是、弱い者が強い者に従うのは道理である。エルフリーデは不貞腐れたように小さく溜息を吐くと、その手に込めた魔力を散開させた。)
しかし長い道のりですね。帝都から丸四日馬車を走らせてやっと王国入り。王都まではあと半日といったところでしょうか。これだけの労力を掛けたのですから確実に成果を持ち帰りたいですねぇ。
うむ。聖教国が本腰を入れているのだ、内戦に匹敵する騒動があるのは間違いないだろう。その隙に乗じてこの国を取る。それまでは目立つ行動は厳に慎め。
はいはい…分かっていますよ。あのカルト国家と貴方の言葉を信じますとも。
(咎められたことに対する些細な腹いせに、エルフリーデは決して軽くはない費用や労力を引き合いに出して少しでもコンラッドに重圧を掛けようと試みる。しかし、返ってきたのは淡々とした背景説明と更なる小言であった。まったくこの堅物は意に返していないと、そう悟ったエルフリーデは隠すこともなく不貞腐れてコンラッドから視線を外すと、軽蔑している聖教国と彼を並べることで下らない腹いせを終えた。
斯くして、内戦に一枚噛むべく送り込まれたこの二匹のハイエナが王国の未来に暗い影を落とすことになるのかはまだ誰も知らない。)
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