継 2024-04-18 08:43:30 |
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これは僕の先祖にあったと言われる不思議な妖怪の話。
数箇所の県で伝承されるバンドリという妖怪の話です。多分有名でもないし、スマホゲーの略称みたいだなって僕は思いました。そこは一先ずさておきますけど、ええと。
バンドリというのは蓑の妖で、その辺に投げ捨てると付喪神になるというものなんだそうです。
僕のひいひいひい…何代前かはちょっと分かりませんが、ご先祖様は蓑を売って暮らしていた時期があるそうです。そのうちの一人に定吉(さだきち)さんという方がいました。
定吉さんは息子も娘も居ましたが何方も向こうの家の嫁に行ったり、仕事の関係で別の家を設けたりなどしたのでお婆さんと二人きりで暮らしていたそうですがお婆さんも先に亡くなってしまいました。
そんな定吉さんはお婆さんが丁度死んで一年が経つある日、街の方へお酒と米を買いに行きました。…帰りはとてつもない猛吹雪で、前が見えなかったそうです。
蓑を被ってよろよろとした足取りで家に帰る中で、林の道を過ぎ去ろうとした時に定吉さんはあるものが目に掛かりました。
バラバラの方向に倒れた6体のお地蔵様の石像群でした。お婆さんが信心深い方だったので定吉さんもよく見知ったそのお地蔵様達が風に煽られて地に伏せる形になってしまったのでしょう。
定吉さんは悴む掌で六体全て直してあげて、更には風の吹き荒ぶ方向に太い枝を数本立ててそこに蓑を引っ掛けました。こうすれば少しは倒れにくくなると思ったのでしょうか。…自分の身体が冷えることも厭わず、そのままその場を後にしました。
荷物の麻袋を両腕にしっかりと握りしめながらカタカタと震えながら暫く歩いているその時です。
何処かから跳ねるような音が迫ってきました。
軽やかに、弾むように近づいてきたのは定吉さんの蓑が丸くなった何かでした。但し、何故か一つ目が生えて飛び跳ねてきゃらきゃら笑いながら定吉さんに忍び寄って、
ばさり、と音を立てて定吉さんの顔から覆い被さりました。
何が何やら分からず定吉さんがもがいているにも関わらずその蓑は恐ろしい力で何処かへ引っ張っていきます。行き先が明確なように、どんどん、どんどん進んでいきます。…その間は不思議と寒くはなかったそうです。
目も見えていないため時間の感覚も分からないまま妖怪に連れ添われた定吉さんは死を予感していました。
それはそれでも良いと思ったそうで、…お婆さんもいない家に帰るのは矢張り何処か寂しく、気持ちが弱っていたそうです。
どれくらいの時間が経ったことか、事態は急に変化しました。唐突に蓑が作る闇は祓われ吹雪の白さに定吉さんは眩しささえ覚えて目を擦ります。その中で、遠くから響く蓑の笑い声と、雪風に乗って一言、
「…まだ早いですよ、定吉さん」
と、お婆さんの声が聞こえたそうです。
呆けた様子で辺りを見渡しましたが、当然お婆さんの姿は亡くなっているので見当たりません。
代わりと言うやら呼ばれたやら、程なくして吹雪の中を息子が松明を持って駆けて近寄ってきました。
「親父!ああ、…ごめん、ごめんなっ…!嫁が子供がもう少し大きくなるまでとずっと聞き入れてくれなくて、…、…もう、もう大丈夫だから…!ごめんな、…ごめんな…!!」
どうやら定吉さんを迎えに家まで来ていたらしいのですがずっと家に戻らず付近を捜索していたそうです。
本当に良かった、死んでしまったかと思ったとわんわんと泣く息子に何度も頷きながら定吉さんは思いました。
婆さんは蓑に憑いて息子と引き合わせたかったのかな、と。
虫の良い話なのかもしれません。もしかしたら妖怪の気まぐれで、定吉さんに聞こえた言葉も幻めいたものだったのかもしれません。それでも目の前の息子が自分が生きていてくれて心底良かったと思っていてくれているのは分かったそうで、…うんうん、と静かに頷きながら二人は家に帰ったそうです。
これが僕の古い倉庫から出てきた定吉さんの息子さんの手記に書いてあったものです。…妖怪ものってよく聞きますけど珍しいのではと思って投稿させて頂きました。怪談の足しになれば幸いです。
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