継 2024-04-18 08:43:30 |
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【D・Prologue】
「──…ん、」
「 Tiens~…?」
午前から昼に変わるくらいの時間帯、身長差がほぼ一緒くらいの男2人がアトリエの裏口から入ってくる。片方はここの元の持ち主にて双子の兄の方とかいう肩書の俺と、もう片方は無造作に跳ねた黒髪ショートに美しい青色の双眸を持った甘い顔立ちのフランス人。
新しく描き溜めた絵画の数点を白布に包んでアレックスと2人立ち寄ると弟は奇妙な姿で寝ていた。床に頭、ベッドに膝から上が乗っていて身体全体でZの形を模しているような形で爆睡している。
「なぁんでベイビーちゃんはこんな形で寝ているのォ、ケーシ?」
「聞くなよ俺に。…いや俺しか聞くヤツいないか…、…わからんのだけども。…でもこの寝息、は、」
長年過ごしてきた為に呼吸のリズムやら顔立ちの雰囲気やら、あとは双子独特のものなのか極偶に限りなく間違いのない確信のある瞬間がある。それで云うと今回はあと数時間は絶対にどう動かしても起きない日だと察すると俺は絵画を邪魔にならない床に纏めてぞんざいに立て掛け、徐々に愉快げに口端に笑みが立ち上り始める。アレックスはこれは駄目な方のスイッチが入ったらしいのを察してはいるが流石に連れ添ってきた年月あってか仕方なさげに眉を下げてやれやれと肩を竦めながら隣に佇んでいた。
「折角悪戯しがいがあるなら弄ってかねえと失礼かもね、…アレックス、道具は」
「あるねえ、上海寄ったときに仕入れた衣装なんかもオマケで、」
「揃い過ぎてるじゃん…Nice、じゃあ…やるかあ。」
どうせ誰も入ってこないが車からメイク道具やら衣装を引っ張り出してきてから部屋の施錠を済ます。
常時つけている手袋を外しては軽くパキリと手指を鳴らし、ただ無邪気に悪魔的な笑みを浮かべながら。一先ず弟の身体を正しい位置に起こすとこから始め、──…暫し芸術肌が如実に出てしまうか、碌に会話もせず黙々と精度の高い作業へと没頭する時間が過ぎていく。
ーーーーー
春にしては暑い日、徹夜続きで仕上げた原稿も漸く終わり死ぬほど寝てやろうと思ったら清掃の行き届いたフローリングが冷たくて心地が好く、少しだけと思って寝てみたものの気付いた時には大分時が過ぎていたようだ。白い陽光差していた就寝から外はすっかり日没の赤に変わっている。
「う、ぁ゛ー…、身体い、った…くない。…はあ?痛くない…?」
そんな筈はない。数時間寝転んで自分でいうのも何ならおかしいが奇天烈な姿勢で寝息を立てていたのに、ということまで自覚すると色んな変化に気付いていく。
先ず姿勢は変わっていないが背中には毛布が挟まれ体が痛くならないように敷かれていたが無論こんなことをした覚えがない。次に衣服の感触の変化。喉が締まった服をきた覚えはしないし足の方はやけに肌が晒されてる感触がある。ついでに足も何だか革靴めいた感覚があった。
何だかとても、とても嫌な予感がして青ざめながらも嫌そうな顔をして僕はゆっくり意を決したようにカッと目を見開く。
「──…、……うわあ、……。……うわあ…!」
紛れもなくチャイナドレスらしき光沢と柄の衣装の布端を確認した。靴もブーツだし、…踵低いけどピンヒールなのが絶望的で立つのも一苦労しそうとか、本当に色々意味の分からない変貌遂げてて声にならない悲嘆を込めて声を上げる。
一先ず一頻りの嘆息が終わったのちに僕は握りしめていたスマホのアプリを立ち上げ兄へ一度通話を発信する。奴には珍しく3コール内で着信が叶った。
『うい』
「ういじゃないんだよな!」
『おはよう?』
「そうでもない!」
『ベイビーちゃあん、なんであそこ鏡無いのぉ、渾身の出来だったのに~』
『そうだよなあアレックス、折角逆異世界転生マフィア楊貴妃じゃんとか盛り上がってたのに』
「どういう…どういう感想…!!」
確かに此処には全身鏡は無いし、必要なことも無い。だから奴らに何を言われてるかさっぱり理解し難く怒りに頭が煮えながら肩を振るわせた。文句の一つも言いたいが寝起きと謎すぎる施しに語彙力が失われていく。
『ちなみにそれ1人だとお前じゃ脱げないから』
「!?」
『あと俺ら今北海道でカニ食いにいくから。そんじゃな』
『また遊びに行くねえ~またネッ!』
全くの悪びれも感じれずそのまま一方的に通話が切られる。一旦呆気に取られながら身体を正位置に戻しへたり込むような形に座り直すと衣服のファスナーを手探りに見つけようと試みたが継翅の言葉通りだった。首から下の真裏に存在するがデスクワークで固くなった肩周りの可動では間違いなく下ろせない。
「…マジか、…も、…うわあ、…」
立てないし脱げないし女装だしどんな状況なんだと、僕は顔を両手で覆う。畜生マスカラの感触がある。
新たな変化の情報は思考停止してこれ以上のメンタルダメージを受けまいと、僕は散々悩んだ末に彼へと連絡を取ることにした。
( / 頼めるならそれは是非とも。背後に流したくなる曲ってなんか良いね。コンセプト度外視でも全然良いし、何ならそういうのも作業の進捗への良いアクセントだから。 と言う訳で作業終了。短めに纏めても長くなった気がする…読みづらくなければ良いけれど、 )
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