カムパネルラ 2024-01-31 16:56:51 |
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>ルカ
……随分と器用な男だな、あなたは。(その肩が震えるのを見た瞬間、ほんの一度だけ目を瞬いた。驚いたわけではなく、僅かな観察の興趣が芽生えたからだ。机上に置いたままの紙袋へと視線を落とし、そこからベルリーナーをひとつ指先で持ち上げる。その指は細く、冷たく、色味も悪い。菓子の温もりすら僅かに逃すようだ。だがその手つきは丁寧で、まるで破損しやすい証拠品でも扱うかのような慎重さを帯びている。再度顔を向き合わせた彼から棘が減っていることを、その空気感から感じてだろうか。自らも同様に表情の薄さから伝わりにくいものの幾分か纏う空気が和らいで。「常識の埒外、か。それにしたって、あなたはその環境で随分と上手に振舞うものだ。」持ち上げた菓子を一口齧ることもせず、再び彼へと向ける赤い眼差し。そこには咎めも圧もなく、ただこれまでの彼に対する認めるような評価が静かな意志としてあった。「……あなたのような男が此処に呼ばれた理由は、私にもまだ分からない。だが、そう遠くないうちに見えてくるだろう。それは今夜じゃないかもしれないし、今夜かもしれない。物事には必ずしも何かの導きや理があるものだから。」そう語ればわずかに目を細めて、まっすぐに彼を見据える。彼の空気が和らいだことを揶揄うのではなく、むしろ喜ばしいとでも言うような反応で口角をゆるりと持ち上げて。)気を緩める瞬間があるということは、まだここを“敵地”と定義していないという証左だ。……あなたが私を敵だと決めつけないのならば、私もあなたの抱く疑問に応えてやろう。
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