カムパネルラ 2024-01-31 16:56:51 |
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>蠍座
1回目のジョバンニとは、どういう意味なのだろうか。彼が口を開くたび、新たな疑問が生まれて止まない。そして運がないことと、彼を見る事には何の因果関係があるのだろうか。あえて濁したような返答をして見せる彼。底意地の悪そうな薄笑いは未だ剥がれることがない。けれど変わらず冷ややかな視線が向けられ続けることに、ゾワリと。並々ならぬ居心地の悪さを覚えた。射抜くような彼の視線が、張り詰めた空気感を作り出す。まるで人を人とも思わぬような…此方を品定めするような、非人道な何かが滲んで潜む。あまりに危険な香りの漂う男の視線から、否が応でも女は暫く逃れることができなかった。
ふと。"運のない女"と、前にも何処かで、誰かに言われたような…。そんな気がしてはモヤモヤと何かが胸の内に募り、伏目がちに視線を逸らしてしまう。ゆっくりと記憶を辿った。誰に言われたのだろうか。それを言われてどのような感情になったのだろう。どのような色を選んだのだろうか。などと自問自答を繰り返すも、やがて色の事ばかりを考え出す自身に再び疑問が振り出しに戻る。肝心な事を何か知っていそうな目前の彼へ、手助けをと思いもしたが、此方の疑問に素直な答えをくれる気がせず、再び向けた視線を落とした。現に今、望む答えをなかなかくれぬ貴方。静かな列車内に沈黙が続き、気まずさすら覚える。焦ったく思えたその時。やっとのこと最初の返答を貰えたのだった。
「…カムパ…ネルラ…変わった名前ね。私は……私は…多分…ルイ。そう、呼ばれていたような気がするわ。」
名乗られたからには此方もと、口をついてでた一人称。だがその先は、酷く確証のない自己紹介が続いた。ルイと名乗ったのは、見知らぬ老人の面影が此方に向かってそう口を動かしたような、そんな一場面が無意識に思い浮かんだから。しかし、そこでようやく女は気がつく。ここへ来た記憶どころか、ここへ来る前の記憶が抜け落ちていたことに。
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