猫と白金の流線 〆

…俺の家、来る？海がお腹空かせてたりするなら、唯織さんの家でもいいんだけど。

（ 彼の柔らかな髪が頬を掠めて少し擽ったい。前々からずっと思っていて責任を持つ覚悟は決めていたが相手の気持ちを考えていなかったかもしれないと行動に移した後に離れようともしたが答えるように背中に回された腕と言葉に、溢れ返りそうな愛おしさが沸き立つともう一度強く抱き締めて、少ししてゆっくり顔を上げると頬に口付けを落として ）

来るときにご飯はあげてきたから大丈夫。
悠介くんの家、行ってもいい？

( 頬に落とされた口付けに、僅かに頬を染めながらも嬉しそうに。こんなときでも海のことを心配してくれる辺りも好きだなと思う。迷惑でなければ彼の家に行ってみたいと思い、彼から少し離れて相手の表情を確認しながら尋ねて。薄明かりに照らされている相手の顔は綺麗でいつまででも見ていたくなる。 )

なら良かった。
勿論、いいよ。何のおもてなしも出来ないけど…行こっか。

（ 頬が微かに染まる姿が尚愛おしくて、目を合わせながら微笑むと口を開き、大切に手を握ってゆっくりと歩き出す。来た道を戻りながらも普通に接するが胸の高鳴りは煩い程で、繋いだ手から心音が相手に聞こえてないだろうかだなんて考えてしまう。そんな時にふと顔だけそちらに向け ）

そういえば…足大丈夫？痛いとか、疲れてるとかない？

ん？あぁ。
履きなれてないから歩きづらいけど、今のところ大丈夫そう。
悠介くんは？

( こちらも優しく相手の手を握り返すとゆっくりと歩き始め。相手の質問には、首を横に振り。浴衣に合わせて下駄を履いてみたが、思いのほかしっくりと足に合っており。痛いなんてことはなく。それもきっと相手が気をつかって歩いてくれているおかげなのだが。むしろ相手は大丈夫なのだろうかと問い返し。)

了解。痛くなったりしたらすぐ言って、絆創膏とか持ってきてるし。
俺も大丈夫、多分このままこっから家まで歩いて帰れって言われても行ける気しかしない位に平気。

……あ、そういえば。唯織さんは今日車？そうじゃないならここ降りた後にタクシー捕まえよっかなって思ってるんだけど。

（ 返答を聞いて安心すれば一応、と言葉を足す。自分も下駄を履いているのだが下駄でも革靴でも何故か幼い頃から靴擦れ知らずで、体力も多少ある為に笑って冗談混じりに言えば祭りがある為に遠くで音が微かに聞こえるが比較的に静かな夜の道を歩いて ）

凄い用意いいな。
ありがとう。今のところ大丈夫。

浴衣で運転出来る自信なくて歩いてきた。
そうだねタクシー拾おう。
( 下駄で靴擦れが、なんて想定していなかったので絆創膏などな準備はしていなかった。それに対して相手は用意をしてきたとあうのでしっかりしているなと思う。本当なら運転してくれば楽だったのだが、折角綺麗に着れたので崩したくなく、歩いてきた。タクシーを拾うのは賛成で頷き。 )

ん、じゃあタクシーで…ってめっちゃ混みそうだし先に配車アプリ使っとくわ。

（ 普段は絆創膏なんて持ち歩かないのだが今回は特別で、彼が少しでも嫌な思いをしないように色々と用意してきた。使わないのであればそれに越したことはなく、微笑んで相手の横顔を見ていたが花火が終わった今、帰る人が多くて混雑するだろうと考えればスマホを取り出して配車をお願いし ）

なんか本当今どきって便利だよね。
タクシーの配車までスマホで出来るんだもんな。
ちょっと最近ついていけてない気がする…。
( まさかスマホでタクシーの配車ができるとは。若い人たちの知識には驚かされる。年々そういった知識を取り入れるのに時間がかかるようになってきたような気がして、やはり歳はとりたくないなと苦笑する。高台から麓に無事下りることができ、タクシーが止まっている場所へ向かって。)

スマホ一台あれば何でも出来るし確かに便利…ふ、そういうのに疎いの、唯織さんっぽくて結構好きかもしんない。なーんでも聞いてくれたら教えれるし、困った事あったら頼って。

（ 配車を終えてスマホをしまいながら自分の中では当たり前の事に驚かれると口にはしないがどこか可愛らしさを感じてつい口元が緩み、彼が知らない事をもっと教えたりして驚いたり感動して欲しくなってしまう。気付いたら先程の静かな場所から賑やかな声の聞こえる場所まで戻って来ており、一旦歩みを止めるもすぐ配車したタクシーを見つければ乗って自宅の住所を告げ ）

そんなこと言われたら頼りっぱなしになっちゃうよ？
( 頼ってだなんて、歳下に言われているのに本当にそうしてしまいそうでくすくす笑ってそう答え。タクシーに相手に続いて乗り込むと、進み始めた車窓から街の景色を見て。賑やかな場所からどんどん遠ざかっていくのが少し寂しく感じ、相手にそう告げて。)

お祭りまた来年も来よう？

唯織さんに頼られるなんてご褒美以外の何物でもないからいいよ。

…勿論。この祭りもそうだけど、来年は海でBBQとかも一緒にしたい。てか、唯織さんとこれから色んな所行きたいな…今からの時期だったら紅葉狩りとかコスモス見に行くのもいいし、静かな場所知ってるからそこでスケッチとかどうだろ…俺は絵を描くセンス無さすぎるから傍で見守ってるだけになるかもだけど。

（ 笑う彼がまた愛らしい、思わずまた抱き寄せてしまいそうになるが人目があるので抑え、微笑んで言う。タクシー内で聞こえた来年の話、穏やかな気持ちで頷くと少し考える素振りを見せるが話し始め、絶景の中で彼が真っ白なキャンバスに筆を滑らせている様子が頭に浮かんで表情を綻ばせ ）

紅葉狩りか。いいな。紅葉が見頃になる頃に行こうか。
でも俺がスケッチしてたら悠介くん暇になっちゃうけど。いいの？

( 相手から出てくるこれからしたいことについては、自分もいいなと頷き。考えれば考えるほど沢山やりたいことが見つかると、こんな風に誰かと一緒に過ごす楽しみを考えたことなどこれまでにあったかなと振りかえり。紅葉狩りは確かにスケッチに最適だが、それをしていたら相手は楽しめないかもと苦笑して。)

俺はスケッチしてる唯織さん見て、傍に居れるだけで満足出来るから大丈夫。それに本とか持ってくから退屈はしないと思う。

（ 紅葉舞う中、恋人とゆっくり過ごす時間は有意義なものになるだろう、想像だけで癒されてしまう。正直な話をしている間にもう場所は自宅近くで、マンションの前にタクシーが停車すればスマホで支払いを済ませて礼を言いつつ降りて ）

ん、わかった。

( 話をしている間にどうやらマンションについたらしい。支払いもスマホで簡単にできているところを見て｢タクシー代後から払う｣と伝え。タクシーから降りると、改めてマンションを見る。高校生が1人で住むような部屋ではないだろうに、なんて思う。)

大きいマンションだよね。

あー…確かに大きいかも。割と持て余すけど、防犯の面でかなり優秀なんだよな。でも個人的にはエアコンとネット環境さえあれば何処でも……それは言い過ぎた。防音室とまでは言わないけど音出してもいい部屋は欲しい。

（ 話しながらマンションのオートロックを開けてエントランスを抜ける。ホールには常駐のスタッフが居り、こちらに気付くと頭を下げるが軽く手を上げるのみで返すと早々とエレベーターに乗り込んで、相手が乗るのを確認すると最上階のボタンを押し ）

へぇ、楽しみ。

( 確かにセキュリティ面では安心できそうだと相手に付いて行き。やはり予想通り部屋もそれなりの広さがありそうだと思うとなんだか少しわくわくして。エレベーターのボタンを見ると最上階ということが分かり、そんな部屋に住めるだけの財力も持ち合わせているのだと思うと相手にはモテる要素しかないな、なんて心の中で感想を。)

最上階って、実際には何階になるの？

このマンションは31階、同じフロアには俺のとこともう一部屋あるみたいなんだけど住んでんのか住んでないのか…住人見た事ないかも。

どうぞ、飲み物出すし適当に座ってて。

（ エレベーターの昇る感覚を感じながら階数表示のランプを眺める。住み始めて三年になるが生活音は勿論聞こえる構造では無く、隣人と鉢合わせた事もなくて、寧ろ今まで興味が無さすぎて人が住んでいるのかも謎だと軽く首を傾げ、そうこう考えているうちに最上階に到着すれば内廊下を歩いて、別のキーカードで自宅の扉を開けると広い大理石の玄関に入って下駄を脱ぎ、その先に続く廊下を少し進んでリビングに入れば無駄に広い空間が。シンプルに置かれた大型テレビ、ローテーブル、大きなソファ、それ以外はカーペットと心ばかりの観葉植物と照明、空間を少し穴埋めする為の調度品が置いてあり、どれも使用感は無く、モデルルームのように整っている。展望を誇るかのように広がる大きな窓からは下の街並みの光が輝いていて、それを少し鬱陶しげに見てからリモコンを手に操作してシェードカーテンをかけて ）

へぇ。…やっぱりすごく広い。綺麗な部屋だ。

( 31階なんて普段行くこともないのでどの程度の高さなのか想像もつかないが、エレベーターに乗っている時間がそれなりにあることからかなり高い場所まで来たことは何となくわかる。相手に続いて部屋の中へと入ると、そこは想像よりも遥かに広く、しかも綺麗に整えられており、素直に感想を述べて。座り心地の良いソファーに腰をかける。)

綺麗なのはあんま使わないからかも。
……─ごめん、水くらいしか無かった。コーヒーとか紅茶とかあったら良かったんだけど…あ、缶コーヒーなら俺の部屋にある、持ってこよっか？

（ テレビを点けると画面にはニュースが映り、それを確認すればキッチンへと足を進める。飲み物を、と冷蔵庫を開ければ中には水とエナジードリンク、後は酒しかなくて少し考える間があったがペットボトルの水を2つ手に取ると彼の元へ戻って隣に腰掛け ）

ふ、なんか悠介くんぽくていい。
水でいいよ。気遣わないで。
( 水しかないと聞くと思わずクスッと笑い。それなら食べるものもきっと入っていないのだろうな、なんて考えて。先程食べたり飲んだりもしたので今は水で十分だと伝え。)

確かに部屋は綺麗だけど、あんまり使ってる感はないね。