猫と白金の流線 〆

（ 職員室に鍵を返した後、廊下で会った友人から文化祭で余ったからやる。と貰った紙パックのいちごオレを飲みながら階段を登っている途中で脱兎の如く駆け下りて来た花里とすれ違い、潤んだ大きな黒い瞳と一瞬目が合った気がして振り返ったがもう姿は見えず、廊下を走る音のみが耳に残って遠くへ消える。そういえば、中学の時に陸上部で結構いいとこまで行ったんだっけな花里。と、友人に熱弁された情報が頭を過ぎりぼんやり考えながらも2階へと到着すればメッセージに気付くも行った方が早いかと足を進め ）

天羽先生。大、丈夫…ではなさそうだな、上手くいかなかった？

（ 開きっぱなしだった扉の前で立ち止まり、ストローから口を離して彼に声を掛けるも円満解決後の雰囲気には見えず、取り敢えず教室に入れば相手に近付いて ）

……あぁ、うん。
はっきりと断ったんだけど。諦められないって。

( しばらく呆然と立ち尽くすも、扉から入ってきた相手を見て。気づかれてしまったかと苦笑すると、少し思い悩んだ表情でどうしたものかと目を伏せる。自分の伝え方がよくなかったのだろうか。また相手にも不安な気持ちにさせてしまうなと申し訳ない気持ちで。)

……そのパターンか。
大丈夫、唯織さんは本当に悪くないし、多分時間が解決してくれると思う。学生なんて選択肢も視野も狭いし花里は断られて傷付きはしたと思うけどすぐ他にってなると思うよ。……相手の好意を断るのって結構こっちも精神持ってかれるよな。

（ 先程の彼女の表情を見て薄々察してはいたが一番しんどい結末になってしまったかと眉を顰める。目線を落とす彼の頬に触れてこちらに向かせると真っ直ぐに見つめて肯定的な意見を述べ、ぽんぽんと頭を撫でて抱き締めれば場所が場所な為に直ぐに離れるも気にしていないから心配はしないで欲しいと緩やかに微笑んで、場の雰囲気を変えようと小さな声であるが冗談めかしながら持っていたいちごオレを口にし ）

……あー、いや、でも割とショックかも。諦めきれないって言ってる恋敵が出来たって事でしょ。今すぐに愛おしい恋人にキスしてもらうか、今晩はずっと一緒に居てもらうとか無いと何にも出来なくなって干からびるかも。

ふ、今日さ夜時間ある？
もしよかったら文化祭の打ち上げでもどうですか？

( 少しの時間でも相手に抱き締められたことで気分が大分楽になり、しかし離れてしまったことが名残惜しく。相手の冗談ぽい口調に、くすっと小さく笑うと、この前言っていた｢飲み会｣でもどうだろうかと持ちかけて。自分も何だか今日は相手と夜一緒に過ごしたいなという思いがあり。)

勿論、喜んで。
てか誘って貰えなくても今日はそっちの家に押し掛ける予定だった。

じゃ、買い物して帰ろっか。

（ 憂鬱そうな表情が少し変わった事もそうだがお誘いが嬉しくて目を細めるともうひとつ冗談を。飲み終えた紙パックを適当にゴミ箱へと投げ捨てれば何のお酒を買って帰ろうかなんて考えつつ声を掛けた後に教室を出て ）

そうしようか。悠介くん、もう帰れるの？

( 頷くと同じように教室を出て人気のない廊下を歩く。自分はもう帰る予定でいたが相手はどうだろうかと尋ね。自分の家で飲むのであれば、何か料理を作ってあげたいとも思うし相手の意見も参考に買い物をしなければと、楽しそうに微笑んで。 )

俺はもう帰れるよ。鍵も返し終わったし。
唯織さんがいいならまんま帰……いや、まだ校内に人居そうだし近くで落ち合う？

（ なんだかこういうやり取りに慣れておらず、相手と同棲でもしているようで少し恥ずかしさと幸せを感じる。自分は片付けも一通り終えて予定も無いので頷いて返せばこのまま彼と駐車場へだなんて思うが大丈夫だろうかと少々心配になり ）

俺も帰れる。
…そうだな。まだ人多そうだし、俺先に出て学校裏にある公園の駐車場に車停めとくから、来てもらってもいい？
( 自分も特に用はないのでこのまま帰宅しようと思っていたが、美術がある棟から離れたところでまだ生徒がたくさんいて、ここが学校であることを思い出す。さすがに2人でしかも教師の車に乗って出るところを見られたらまずいかもしれないと考え、学校裏にある少し大きめな公園の目立たない所に駐車場が。そこでどうだろうかと提案を。)

了解、じゃあまた後で。

（ 待ち合わせ場所を把握すれば簡潔にやり取りを終わらせて一旦相手から離れて生徒の中に紛れ込んでいく、途中軽音部の後輩に声を掛けられればそれに応え、少々の雑談を交えた後に玄関口へと歩みを進めれば靴を履き替えて ）

( 相手と別れると職員室で荷物を回収し車へ。先程告げた学校裏手にある公園へ行くと、そこまで人気はなく、車が1.2台だけ停まっている駐車場へ。スマホで一応到着したことを知らせつつ、やはり彼が家に来るのだから何か手の込んだものを作ってみたいだなんてレシピサイトで検索をして。)

唯織さん、お待たせ。
何見てたの？

（ 学校から出た瞬間普段の癖でイヤホンを取り出すも、直ぐに相手と合流する為にポケットにしまい歩き出す。正門を出た所には生徒が勿論いたが裏に行くにつれて数は減っていき、公園に到着する頃には生徒どころか人も少なく、安心しながら駐車場に向かえば見慣れた車が。助手席に乗り込むと相手がスマホを見ているのが少々珍しく感じ、シートベルトを締めつつ尋ねて ）

ん？レシピサイト見てた。
せっかくだし、何か作ろうと思って。
悠介くん食べたいものある？

( 相手の姿が見えると手を振り、助手席に座った相手に自身のスマホ画面を見せると、何か食べたいものはないかと希望を聞き。とりあえずスーパーにでも行こうと車を発進し、駐車場を出て。)

成程、食べたいもの…だし巻き玉子とか、肉じゃが…はちょい手間かかるか。何の酒飲むのかにもよるよな、唯織さんは何飲みたい？

（ 楽しみな飲み会の上、恋人の手料理が食べられるなんて幸せの他無くて口許が緩む。ずらりと並ぶレシピ、決め兼ねるも今食べたいものを口に出すが酒によって割と左右されるかもしれないとそちらを向いて尋ねるも、運転をしている彼の整った横顔を見て謎に胸がぐっと掴まれる感覚がして、大学生の彼氏を持つ同級生が「ドライブデートの時に彼の顔見るの好き！」だなんて話しているのを聞いて、自分も運転はするが運転する時の顔面なんて意識してないし、どんな顔だよ…変わった癖だな、と感じていたがこういう事かと分かればゆっくり前に向き直り ）

だし巻き玉子、肉じゃが。どっちも作れるよ。
そうだな……あんまりお酒詳しくないけど、ワインは結構好きかも。飲みやすいお酒であればなんでも大丈夫。

( だし巻き玉子、肉じゃがは自分でも比較的簡単に作ることが出来る。何が飲みたいと言われてパッと酒の種類が出てくるほど酒に詳しくはなく。しかし、比較的飲み会などでも口にするのはワイン。それか甘い果実系のお酒。確かに飲む酒によって食べるものも合わせると美味しいのだろう。スーパーについたら飲み物を選んで、料理を考えることにしようと頷きながら、それこそ同棲したらこんな風に一緒に買い物に行くことができるのかな、なんて想像を膨らませていると自然と笑顔になり。そうこうしているうちに、自分の家の近くにあるスーパーに辿り着いて。)

行こうか。

…え、何それすご。
ワインいいね、じゃあチーズとか買おっか。…飲みやすい、なら日本酒がめちゃくちゃオススメなんだけどかなり酔いやすいからな…。

ん、行こう。…あ、俺は桃の酒だけはちょっと飲めないってか低アルコールでも一瞬で潰れるからそれだけNG。

（ 目玉焼きさえ消し炭になる程に料理が微塵も出来ない自分にとってはその2つを作れるなんて神のような存在で呟くように口にする。相手の好みを聞きつつおつまみを考えていればスーパーに着き、車から降りて店内へと入りカゴを持つがそういえばと振り返るとひとつの事項を。桃が関係する酒にいい思い出がない。自我が出ていると言うよりもう欲のまま動き出す感があり、人前で出していいようなものでは無い。苦笑いして告げると周りを見つつ歩いて行き ）

日本酒か。普段ほんとに手を出さないから飲んでみたい気もする。飲みやすいの教えてほしい。

…そうなんだ？わかった。

( 会話をしつつスーパーに入る。カゴをさらっと持ってもらうと、なんだか申し訳なく思うもお願いすることにして。日本酒、普段飲み会でもあまり手を出さない、というよりは種類がありすぎていまいち手を出しにくかったのと、それなりに度数も高いから友人からは止められていた。アルコールが入るとすぐ気持ちが良くなって寝てしまう。少しだけならいいかなとお酒に詳しそうな相手に意見を求め。しかし、桃の酒がだめだとはなんか意外で。頭に刻むと頷く。酒売り場につくと、それなりに品ぞろえは充実していて。)

日本酒初心者だったらスパークリングのやつ試してみようか、度数も低めだしシャンパンに似た感覚で美味しく飲めると思う。俺も飲むし、普通の日本酒もお試しで買おう。他は…一応口に合わなかった時用のワインと、ウイスキーも飲みたいけど買いすぎても……小瓶ならいいか。

（ 充実している酒売り場を見ると微かに目を輝かせる。基本的に酒はコンビニかネットか、飲みたい物があれば人に頼むだとかするし料理もしない為にスーパーに縁が無かったのだがこれ程揃っているのであれば次から買う時の候補に入る。年齢が年齢なので声を大にしては言えないがそこそこ酒には詳しい方で、彼の話に軽く頷くと説明をしながら酒をカゴに入れていく。ノーマルの日本酒は甘口で飲みやすい物をチョイスし、彼の傾向的に赤よりもこちらかと白ワインも手に取る。ウイスキーも目に入れば手を伸ばすが酒に不慣れな彼向きでは無く完全に自分用になってしまうだろう、少し悩むが欲には勝てずに結局カゴに入れ ）

…あ、ご飯の事なんだけど。日本酒メインだったら結構合うと思うしだし巻き玉子と肉じゃが…作ってもらってもいい？

（ 取り敢えず酒はこんなものか、とカゴを見た後に相手を見る。普段知り合いと飲む時なら「もう出来合いの物買って帰ろう」と提案をするのだがどうしても彼の手料理が食べたくて、少々恥ずかしそうに目を逸らすとお願いを。 ）

飲みたいもの買おう。

うん。勿論。
野菜と卵は家にあるから。牛肉と糸こんにゃくだけ買おうかな。
( 相手が目を輝かせているのを見て、思わず微笑む。本当は彼は未成年だしお酒を飲ませるのは教師としてどうかと思うが、2人で家で飲むのだから目を伏せよう。むしろ美味しいお酒を教えてもらえているから此方としては嬉しい限りで。料理に関しては材料もあるし構わないと頷き。残りの材料を買い足そうと肉売り場とこんにゃくのある売り場へいき。)

…料理出来んのって本当に凄いよな。
何でも無難にこなせる自信あるんだけど料理だけは無理そう。でも、同棲したら家事分担は絶対だし少しは覚えた方が……いや、多分俺がキッチン立ったら週3くらいで事故起きそうだしもしそうなった時は料理以外は全部俺がやるよ。

（ カゴに入る牛肉と糸こんにゃくを見てから慣れた様子の彼を見て今一度感心すると同時に将来の事を自然と想像し、ぽつりと口に出す。ついでにチーズやナッツ等をカゴに入れて話しながら考えていたが"包丁を持つのは料理とかの対物時では無く対人の時だけにして下さい"だなんて物騒な事を真顔で言われた記憶が蘇ると苦笑いし ）

料理は好きだから全然苦じゃないし。むしろさせて欲しい。

……買うものこれでいい？よかったらレジ行こうか。
( 同棲の話がサラッと出ると、それには自分と同棲も考えてくれているのだろうかと嬉しい気持ちもあり。そうなったら料理は自分がしたいな、なんて希望を言いつつも、どれだけ料理が苦手なんだろうと小さく笑って。他に買うものがないかと確認すれば、レジへ向かおうとそちらの方へ。 )