教祖 2023-08-06 19:34:26 |
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( ようやくお出ましかと奇異の視線に晒されるは異形の青年。最早轟音のような野次嘲笑が耳を劈き、顰めた眉の下には不愉快な色が覗く。噛み締めた煙管がギシリと音を立てて軋んだが、周囲に咎め立てするものはなく。急き立てられるようにして壇上へ上がった彼は酷く華奢で、照明の力強さを忌避する様子は存外に痛ましい。儚げな様子を異質な上腕が強調している哀れな子。──けれども己が欲しているのは、それじゃない。妙味に乏しい椅子の背に身を預け、今回の視察も空振りに終わるかと立ち上がりかけた瞬間、不意に一対の視線を身に受けた。こちらに向いた視線は刹那の内に逸らされ、漆黒の色を宿した異体は手慣れた所作で下に向く。幾年もの年月を感じさせる流麗さを持って下げられた頭は、怯懦さえ隠してしまうような鬱屈した美を持っていた。茹だる狂熱の向こう側、藍に映る所作に見出したのは彼の者の持つ利用価値。 )
── 見世物小屋 外部
( 座長との契約は既に済ませ、小屋の傍らの壁に凭れて目当ての人物を待つ。契約内容に怪訝な顔はされたものの、無事に済まされたのは余りにも都合の良いものだったからであろうか。それはもちろん、" 劇場側 " にとっての話。対外的には自身に何の得もない契約は、その実突出した悪意を持って紡がれたもの。完璧に覆い隠した仮面の下に気がつく者は己と同類しか居まい。やがて公演を終えた彼がやがてその身を表すならば、気さくな風に手掌を振って出迎えようか。張り付けた微笑の内側に渦巻く打算は素知らぬ振りで、彼へと手を伸ばす。彼が己の腕を除けないとすればそのまま肩を引き寄せて。間近の距離に耳打ちするよう囁きを、低く響くそれはどことなく甘やかな情を滲ませていて )
やぁ、お前が今日の花形だな。俺がお前を買った旨はもう聞いたかな。
( /こちらこそ、不都合やご指摘などあればお知らせください!それではよろしくお願いいたします。 )
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