29340 2023-08-01 10:16:20 |
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(榊)
─構わない。いつでもおいで、歓迎しよう。
(背中に掛けられた彼女の言葉にふと足を止め、振り向きざまに柔らかな微笑みを向ける。社に戻ると先程の蛇たちが彼の身体を這い登り、甘えるように頭を擦り付けてくる。彼は蛇たちを撫でつつ、縁側に再び腰を下ろして月を見上げた。木々の騒めきが一層強くなり、彼の下半身がぞわりぞわりと大蛇のものへ変貌していく。─「姦姦蛇螺」。それが彼の真名であった)
(ジュリア)
今日のキミは随分とおかしなことを言うねえ。事務所はここだよ、ワトソン君。ここはベーカー街221Bじゃないか。
(そう笑いながら歩き続ける『彼』が足を止めたのは、雑居ビルのテナント─の筈なのだが、明らかに他のテナントとは異なる毛色を放っている。いかにも高級そうなランプや絵画、それにマホガニー製のテーブルなどを始めとした高級外国家具に高そうな本革張りのソファ、極めつけには目を引く黒檀の暖炉にシャーロック・ホームズの全シリーズと小難しそうな専門書ばかりが詰め込まれている本棚─とこちらも正に小説の中のシャーロック・ホームズ事務所を模倣したような雰囲気の空間が広がっていた。『彼』は慣れた様子で事務所の奥の方にある、これまた本革のチェアに腰を下ろすと「ま、寛ぎたまえ」と貴女に一言)
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