匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……分かった。すぐ持ってきてやるから、くれぐれもそこを動くなよ。
(此方の問い掛けに対し、無音ながら呆けたような反応らしきものを微かに示した相手が天井へと視線をやってから、再び長い沈黙が場に落ちて。よもやこの期に及び無欲でも貫くつもりかと例の如く痺れを切らしかけた所で、ぽつぽつと長考の末の声音が室内の静の空気を恐る恐る震わせ。返答の遅さに文句を垂れんとする自身の短気よりも病人に対する理性が辛うじて勝っては、やや性急な仕草で退室の直前にぴし、と長い人差し指の先を相手に向けてから廊下へ姿を消し。それから十を数える間すらなく再度扉が勢い良く開き、舞い戻った己の手には冷水で満ちたコップと氷嚢代わりの蒼白い魔石にタオルを積載した木製のトレーが握られていて。流石あまりに確たる証拠こそ相手に握らせないものの、魔法の使用を加味しても相当に準備を急いだらしき気配は、僅かに上下する肩や少々荒い呼吸音から多少なり漏れ出してしまっているだろうか。そのままつかつかとベッドの脇へと足を運ぶと、如何にも不慣れな所作で介抱に惑いつつも一度トレーを机上へ乗せてから、水晶のように澄んだ水を湛えるコップと小さな薄布に包まれた濃い緑色の粉末を差し出して。もしも相手が少しでも辛そうな素振りを見せるのであれば、愛想のないひねた言葉とは裏腹に躊躇い無く床に片膝を付き、目前の小柄な背へもう一方の腕を添えることで起き上がりを助けようと試みるだろう)
……まずはタオル、でなくて水か……? ――……ほら、ご所望の品だ。とっとと飲め。……あぁ、それから、これもついでに飲んでおけ。滋養強壮に効く薬草を粉にしたものだ。
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