匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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! 馬鹿、だから動くなって……!
(寝室へ運ぶ素振りを見せた途端、何かのスイッチでも入ったかのように目前の矮躯は平生と寸分違わぬ挙動で起立してみせて。どうやら当人に不調の自覚は甚だ薄いと見えるも、先程触れた熱の残滓が未だ手の内に残る身としてはおよそ気が気ではなく、再び口を開こうとした矢先。まるで人形の糸が切れるが如くがくりと倒れ込む様に息を飲み、急ぎ肩や腕を掴んで助け起こすや否や率直極まる罵倒を放って。しかしその声音は悪感情よりも圧倒的に憂慮の色が濃いもので、苦々しく皺を刻んだ眉間の下にある真摯な光が常の鋭さを忘れ辛そうに歪む。彼がその奴隷精神に基づき自らを異常なまでに省みない事など、それこそ初日から十二分に分かっていた筈。――俺がもっと気を配るべきだったのに。心痛を堪えるように瞳を伏せ静かに嘆息を吐くと、此方へ仰向かせた相手へと徐に長杖の影を落とし。恐ろしい程に精巧な真円を象る頭頂部の魔石がみるみる内に妖しい赤光を帯びて、ただでさえ病に侵された凡庸な少年の意識など容易く摘み取ることだろう)
……どの道、綿密に調べるなら意識のない方がやり易い。大人しく眠ってろ。
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(結論として、幸いながら大きな病でも秘された持病などでもなく、単なる精神的、あるいは肉体的疲労に起因するごく一般的な風邪であろうという判断を下した。最悪の場合は原子レベルでの再構成や時間操作まで頭の隅に置いていただけに幾分か肩透かしではあるが、まぁ大事ではないに越したことはなく。未だこの家の唯一の寝台である己のベッドへ眠る相手の寝姿を横目に、自らは脇の木椅子へと腰を下ろして。彼が倒れてから数時間を経て、そろそろ魔法の効果も切れる頃合か。もしも相手に起床の気配が少しでも伺えたのなら、小一時間前より開いたはいいものの隣のささやかな寝息や挙動が気に掛かる余り結局微々として判読の進むことのなかった古文書を音を立てて閉じ、就寝中の懸命な診察や介抱などおくびにも出さない少々皮肉気な声と態度で応じることだろう)
……よぉ。どうだ、本日二度目の起床のご気分は?
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