匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(清閑な二人暮らしに身を慣らした弊害か他者の存在など全く気に掛けておらず、思わぬ第三の声の闖入によって行き違いの問答は不意に幕引きを迎えることとなり。取り残されてぽかんと突っ立ったまま影の濃い方へと溶けてゆく背姿をローブの輪郭が暈けるまで見送ると、言い付け通りに他の棚にも足を伸ばして陳列された品々を順に眼差しで撫でてゆく。素人目にも拘りの窺える本格的な画材は関心を引けど、突然耳に飛び込んだ威勢の良い呼び込みに振り返れば羽が生えたかの如く足取りはふよふよとそちらの方へ。停まった行商用のリヤカー周辺には疎らに見物客が集まり、その輪の中央では風采といい弁舌といいやけに存在感のある青年が彼曰く〝とっておきの逸品〟を台の上に取り出して実演披露している最中で。紹介される商品はどれもパフォーマンスありきのエンターテイメント性に重きを置いた珍品だが、奇抜な発想と示される実用例の爽快さに販売員の話術も相俟って、後方から遠巻きに見ていたはずの双眸は今や独壇場を囲う円環の一部。続いて球形の野菜や果物を容易に六等分出来るという抜き型のような器具を掲げた青年は客の顔を見回し、興味津々に次の展開を待つ己と視線が交わるなり元から持ち上がっていた口角を更に持ち上げ。「坊ちゃん、やってみるかい?」一気に注目を集めたのと呆気に取られながらも頷いたのはほぼ同時で、促されるまま相手と並ぶ位置まで進み出ては渡された金属製の〝六等分カッター〟の外円部分をハンドルさながらに掴む。そこから六本の線が中心に向かって伸びた先の内円を芯の部分にあてがって実演用に準備されたトマトへ押し込むや、赤い蕾が花開くように均等な櫛形がはらりと転がり。控えめな歓声に遅れて幾つか拍手も聞こえ、これで賞賛を受けるのなら主人の魔術は一体どれだけの大喝采を巻き起こすだろうかと脳内で想像を繰り広げつつ傍の商売人を気持ち晴れやかな面差しで仰ぐと、商機と見たのか熱の入った語勢で購入意思を問われるもそれには気色も変えずはっきりと首を振って。物心ついた頃から最低限の生活を送ってきた孤児に面白いだけのアイデアグッズを買うつもりなど初めから無く、無邪気に最も性質の悪い客となっては観衆の奥に会計を終えた彼の姿を認め、時の進みを思い出したかのようにはっと短く息を吸い込む。潔い冷やかしに引き攣った頬を無視してその近くまで駆けたなら、先程までの喜色は何処へやら真面目くさった顔で待たせたことを詫び)
――すみません、珍しい調理器具があって……。
(/いえいえ、とんでもないです! 細やかなお心遣い痛み入ります……。実演販売のくだりはさらっと終わらせてしまいましたが、もしリヴィオ様も一枚噛みたい等ございましたら適当なところで描写を切って無かったことにしていただいて構いません。以降もよろしくお願いいたします……!※蹴り可)
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