匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……す、少し覗いていっても良いですか?
(少し前までは不思議で堪らなかった強圧的な言動も、今なら命令を忌避するがこその窮余の一策だと分かる。数歩先んじた靴音が喧騒に紛れるように止み、その中からまた己の隣まで歩み寄るのを聞き取れば、思い切りかねて視線を画材屋と彼との間で往復させ。奥の薄暗いカウンターに座す気位の高そうな店主は鳥籠の中に小さな獅子の如き魔物を携え、手癖の悪い子供が盗みを働きはしないかと目を光らせている。一方で、痺れを切らしたのかいよいよ迫力を醸しだす金眼は、貫かんばかりの眼差しで此方が口を開くのをじっと待っていて。所有者の権利を行使しないにしたって相手を操る術なら他にやりようがありそうなものだが、自身が名前のないこの関係性を奴隷と主人に押し留めようとするのと同様に、彼にも理屈を凌ぐ何かがあるのだろうか。しかし確かにその声なき指示に後押しされて漸く唇を動かすと、伺い自体は控えめながらも向ける双眸は本心を偽らず真っ直ぐで。それに許諾が下りたなら、〝虹孔雀の羽根〟や〝クラーケンの墨〟等の魔物から採取したもの、希少な〝青珊瑚〟や夜道を照らす道草として知られる〝ランタン草〟を原料とするもの、各時間帯の光の粒子を魔法で物体として小瓶に収めた〝日光〟〝月光〟なんてものまである品揃え豊富な顔料達を興味のままに覗き込み。その内の一つ、黄金の林檎と称される形象と猛毒を持つ魔物である〝禁忌の果実〟のラベルが貼られた小瓶を手の中に抱えては、運命の巡り合いでもしたかのように大きく瞠目し。あの瞳を描くとすればこれしかないと確信する程の繊細な輝きに暫し釘付けになった後、徐に後方を振り返ると、興奮気味に主人の方へと手中のそれを見せに行って)
――リヴィオ様、これ……。
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