匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(服屋とはこういう場所なのかと、初めての経験にいつか魔術師の入浴作法に対し抱いた謬見と似た誤解を連れて店を出るも、それは即座に否定され。どうやら狭い箱の中で生きてきた己には学ぶべきことが山程あるらしい、と無知の知を獲得する間に歩み出す背に追い付けば、会話と視線の向き先へと首を回す。見覚えのある意匠にそれが自室へ設えられた家具であると勘付くまで時間は掛からず、同時に魔力開花の翌日に与えられた室内の光景が目に浮かぶと、その中を動く自身の姿までも克明に蘇るようで。過ぎ行く家具屋店内の鏡台やサイドテーブルは日々最低限の活動しか行わず、またそれに不自由を覚えない居候には必要の無い代物。唯一の障害だった整理や清掃の際に高い棚に手の届かない問題もいつの間にか出現した踏み台によって解消され、森奥での暮らしは連れられた当初の危惧に反し快適に保たれていて。画材は減りこそしたものの未だ尽きる気配が感じられず、書籍は子供向けのものは読破したが、大量で難解な主人の蔵書を手に取り始めてからは本に困ることなど想像もつかない状況。正直に答えつつ、強いて言うなら調理器具だろうかと全くの無意識で顎に手を添える折、遠くに見えていた画材屋が目前へと迫っては、店頭に並ぶイーゼル等の器具や希少な顔料に未知への好奇心から足を止めて)
……いえ、どれも不足はないです。むしろ人並み以上の生活を――
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