匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……そんなこと、僕に赦されるんだろうか。
(自身の呟きと同様の語が近くで繰り返されると、はっと我に返って声の方へと顔を向け。まさか考え無しの忍び音を拾われているとは思わず、不可解げな面持ちからの問い掛けに「ぁ」だとか「ぅ」だとか蚊の鳴くような声で意味を成さない呻きを発していれば、否定が無いため肯定と取ったのか手にしていた品物も合わせ精算の運びとなって。今まで生活必需品は与えられた物を支給物として享受してきたが、自ら選択するとなると途端にその色合いが薄れ、彼との距離を測り損ねてしまう。鮮やかな手捌きで購入品を纏めている店員の姿を眺める振りをして盗み見るように主人を窺うと、不意に金の瞳が此方に動いて睫毛の先が微かに揺れ。視線を交わらせたまま暫くは神妙に説法へと耳を傾けるも、ついでのように見目に関しての思わぬ評価が下されては分かりやすく喫驚を露わにして。鏡の中に見た己は確かに風体のみに限ればその身を飾る服飾のおかげで育ち良くも映ったが、中身は全くと言って良い程伴わぬ字義通り〝何も無い〟子供だ。両の掌を胸の前に出し、今し方授けられた台詞を反芻しながら目を落とす。夜市で家族を見捨てた自身が何かに手を伸ばす事などあって良いのか、と誰にともなく問うた迷える声を聞いたのは、左の中指に嵌めた暗色の指輪だけだろうか。肌身離さず着けているそれに幾許かの安らぎを覚え、すぐさま主人の背を追えば、社交術を学ぶ手始めとして精力的に自らの衣服を選定してくれた女性店員にその基準を聞き取り。気軽な尋ねのつもりだったそれに予想外の熱量と時間を掛けた答が返ったなら、短杖ホルダーとローブを身に付けて店を出るなり放心気味にぽつりと零して)
……濁流のようでした……。
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