匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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カーテン……? あぁ、ローブの事か。……それが良いのか?
(店員の提案に承諾を返し、店内を彼女の説明と共に巡る傍ら、諾々と追随する少年の横顔をちらりと盗み見て。不本意な共同生活が幕を開けてから早数ヶ月が経とう今となっても、相手の嗜好はおろか碌に内心すら読み取れず、つくづく奇妙な少年だという印象に変わり映えはしない。しかしながら、一応形ばかり彷徨う指先とある一角において他より優位して留まる視線を鑑みるに、当然だが多少なり彼にも好悪らしきものは存在するようで。自身も足を止め新たな商品棚へ視線を転じると、幾つかの装飾品類を経て移った先の一見突拍子もないように感じられる呟きへ怪訝に首を傾げ。ゆったりとしたシルエットを描く優美な布地をよくよく観察すれば発言の意図自体は汲み取れるも、その選定基準には全く理解が及ばぬ一方、極端に乏しい表情と口数の少なさに比して思慮深い彼の性質への理解はあり。早速他の客の来店音により元の一名に戻った店員へ、相手が目を留めたタイや短杖ホルダー、加えて先のローブと試着した品を購入する意思を告げると、卒のない礼と共に該当の品の包装と代金の計算へ向かう彼女の後ろ姿を見送り。暫し生まれた二人だけの時間に、一先ず購入品は定まったものの自身の意向を確り主張したとするにはあまりに控えめであり、そもそも真に欲する物を示したのかすら少々胡乱な相手へ再び視線を落とすと、常の渋面を形作ったまま諭すように口を開いて。最後にようやく相手の装いを評する台詞を紡げば、ふいと視線を逸らした先の店員から品の準備が整った報せを受け、何事も無いようなら速やかに会計まで済ませられるだろうか)
……遍く夢も欲望も、ただ内に秘めるだけでは何も得られない。一生その手を無手のまま終わらせたくないなら、少しは欲心を見せる事だな。……まぁ、お前はそうして身なりだけでも飾れば上等以上に見えなくもないんだ。社交術として己を飾る術の一つや二つ、覚えておいて損は無いだろ。
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