匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(世に広く流通する古き良き御伽噺において、箒で空を飛ぶ魔女の図が定番という最低限の知識程度はあれど、はたして背後の相手に響くか否かは甚だ怪しいところ。酒に呑まれた末の気紛れが実を結んだかはさておき、いよいよ杖の高度をぐっと落とせば、緑の絨毯の隙間を抜け高々とそびえ立つ大樹の目前へと降り立って。瑞々しい新緑を湛える枝を四方に伸ばし、両の腕程度では到底足り得ない巨大な幹の下で深く地に根を下ろす、その僅かな隙間。人間一人が辛うじて入れるような木製の簡素な扉が一枚、根と根の合間にひっそりと設けられており。到底現実離れした異質な様相ながら、実際の居住者としては慣れ親しむ光景を前に自然と気も身体の力も抜け。「ここが俺の家、で……、」同時に、どっと一日の蓄積した疲労が押し寄せるのを感じ、少々覚束無い口調の元近付いた扉のノブに手を掛けると、きぃ、という木の軋む軽い音を合図に、明らかに外観にそぐわぬ広い空間が開かれて。それは如何にも魔術を嗜む者の一室といった内装であり、壁沿いにびっしりと魔術の専門書や奇怪な言語を表題とする物で埋まった本棚が並列し、脇には羊皮紙が乱雑に山積される書き物机と、面妖な植物や種々の色渦巻く薬瓶など奇々怪々な品が連ねる上部の飾り棚。そして最後に、樹木の隙間から降り注ぐ月明かりにより淡く蒼色に染まるそれは小綺麗な一人用のベッドであり、詰まるところそこは自身の寝室に他ならず。ふわふわと常よりも思考が上滑りするような頭を片手で抑え寝台に腰を下ろした後、にわかに限界へ近付きつつある据わりかけの瞳を相手に向けて)
……眠い。詳しい話はまた後だ。玄関や廊下は魔術で省略したけど、今の扉をもう一度開けばその先に食料庫だのシャワーだのに繋がる扉もあるから、好きに使え。……他に質問は。
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