匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(孤児院への寄贈本で読み書きの基礎を習得した己にとって本は全く親しみのない物ではないが、読書それ自体を目的として設けられた空間に入るのは生まれて初めてのことで。さすがに見知った書影は一つも無いものの、まさかこんな山奥の地下に虚仮威しの為に置いているわけでもあるまいし、此処の一切合切が彼の血肉になっているのだと思えば興味を惹かれて背表紙の題を数冊浚う。多様な言語が並ぶ内から可読のものを選り出したはずが、魔術関連の専門用語なのか馴染みのない単語の数々に内容の推察を諦めては、知識や教養を身に付けるにもその為の知識や教養が必要なのだと学びを得て。自身が主人の内面の観察に失敗する傍ら、彼の方も何やら来し方の苦い経験を思い起こしているようで、訓蒙を惜しまないその口が重く閉ざされている様子からも相当な憂き目に遭ったと見える。茶会など子供だけの飯事でしか経験のない己にとっては楽しげな印象しか無く、苦難とはまるで結び付かないものの、まだ見ぬ部屋の存在と共に忠告と対策も確かに記憶し。書庫を進んだ先で本題である魔力開花の為の指示があれば常の如く「はい」と従順な返事の後、姿勢良く背を伸ばして一人椅子へと腰掛ける。最早奴隷精神には収まらぬ信頼から、より多くの空気を取り込むように大らかに呼吸し、つい握り締めていた手を解き、難なく緊張状態を脱しては最後にそっと両眼に蓋をして)
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