匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(先を行く主人の足取りに従って一歩ごとに姿を現す道程を、少し右にずれた後方から追って下りる。足元と階下と迷いなく突き進んで行く赤髪とに視線を忙しなく向け変えながら出す下肢は、空を飛んだ夜のような非現実的な浮遊感を伴って奇妙に軽く。導の魔石が光を放つと共に淡々と明かされたこの住処の全容は難解で理解するには至らなかったものの、同じ扉を潜っても同じ部屋には出なかったり、床に突如として地下への階段が出現したり、そもそも大樹の根元に位置したりと、不思議をあげれば枚挙に暇のない此処では何が起ころうと最早不思議ではないのだということは浅い解釈と実体験によって諒解し。しかしそうは言ってもこれまでそういった方面に縁遠い生活を送ってきた身。地下空間に広がる奇怪千万な施設や蒐集品を目の当たりにすれば驚駭は隠せず、圧倒され無意識に息を詰めながらも瞳は部屋のあちこちへと惹かれて行って。地下室の有り様から中央の台で魔術の追究に明け暮れる、知り得ないはずの主人の姿が目に浮かぶようであれば、不用意に手を触れないよう左右のそれを体の前でそっと結び。それから鍵の付与の本来の目的である仕事内容が語られると、主従契約の最後に彼から秘密を知らされたかのように感じられ、神妙な面持ちで注意深く頷いて。高い気概をもって作業に取り組む姿勢を示した折、逆説で言葉が繋がれては肩透かしを食ったが如くひとつ瞬き、目線の先を辿って典麗な意匠の施された水晶玉を見遣る。魔道具であることは辛うじて看取できるが、素人目に分かることはそれのみ。使用方法も効果もさっぱり見当がつかなければ、ビー玉のような両眼の奥に幾つもの仄かな気色を揺らめかせながら、視線を戻して次の指示を仰いで)
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