匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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――これで良いだろう。次は床へ向かってその左手を翳せ。……適当にそれらしい文言を唱えてもいいが、開けと念じさえすれば叶う。
(疑問の声一つもなくひたすらに恭順の意を示し続ける相手へ、複雑な心境を抱くようになったのは何時からだったろうか。些か以上の危うさを内に抱える少年を一人送り出す事に内心不安も色濃く、此処を発ってもやはり暫くの間は監視用の紙鳥を一、二羽放って……などと少々親心めいた庇護欲はさておき。表面上は努めて淡々と、手の甲ごと差し出された指輪へついと軽く杖を振りかざせば、一瞬の赫光と共に術式の編まれた魔力が指輪へと移行して。とはいえ艶やかな黒石の外形自体に大きな変容はなく、仄かに灯る魔力による熱すらも直に消え失せるだろうが、しかしその内に秘められた部屋へと至る鍵は確かに刻まれ。続けて床を指した杖先の導きに相手が従うようなら、即座に床一面へ大輪の花が芽吹くように淡く輝く幾重もの魔法陣が一斉に展開するのも束の間、パキンという小気味いい封鎖術式の解錠音と共にその全てが儚く形を失うはずで。代わりに元の木面へぽかりと現れたのは、闇を湛えた口を大きく開く地下への階段だろうか)
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