夕映 2022-06-08 12:23:04 |
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ぼくは絵画の中に住んでいた。貴女はぼくを部屋に飾って、何度もぼくの名前を呼んだ。それが嬉しくてぼくは笑った、綺麗な顔で。けれどほんとうは、貴女の唇が紡いでいたのはぼくの名前じゃなくて、絵画の題だった。ぼくは泣けなかった、涙のぶんの絵の具が足りなかったから。
彼女は絵画を愛していた。部屋にはいくつもの絵が飾られていて、彼女は好きな時に好きな絵だけを眺めた。絵の具の塗りたくられた奥にはもう誰も住んでいないみたいだったけれど、彼女はきっとそのことに気が付かないだろう。
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