匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(艶やかなポニーテールを揺らし、可愛らしく小首を傾げる仕草。それは確かに、ギデオンがよく知る“普段の”ヴィヴィアンがよく示すもので、突然日常が戻ってきたような感覚に何度かの瞬きを。しかし、鮮やかな紅の乗った唇から再び花火の件が持ち出されれば、眉を顰めて見つめてしまう──不快だったからではない、彼女の真意がまるでわからないからだ。深い意味があるとみなされるものを一緒に観に行ってはやれない、とはっきり告げたのが約二週間前。あの時の言葉の意味を物わかりの良い相手もきちんと理解し、だからこそ……その、ここのところ大人しくなっていたのではなかったか。そう認識していたものだから、こつり、と石畳を踏んで一歩近づいた彼女が挑発的に微笑みながら口にした台詞に、ペールブルーの眼を瞠る。そして次いで紡がれた煽りに、今度はその目を微かに細め、軽く睨むような表情となって。)
……見くびられるのは心外だ。いいだろう、乗ってやる。
(ふ、と小さき息を吐きながら、まんまと乗せられた形での返事を。何でも言うことを聞く、と若い美人に言われたところで、やましい何かを働こうと盛るような若さは、ギデオンにはもう残っていない。だが、焚きつけたって大丈夫だろうと高をくくられてしまうのは、男として御免である。……それにどういう理屈かはわからないが、この誘いに乗ること自体で彼女の機嫌が多少直ってくれるのであれば、かなり御の字といえるはずだ。「とりあえず、こいつを片付けてからにするぞ」と縄の端をびんと引っ張れば、惨めな鳴き声をあげて立ち上がらされる件のひったくり。「なんなんだよぉ、いきなりケツ燃やされてよぉ……その上かわいこちゃんとおっさんのくだらねぇ痴話喧嘩まで見せられるなんてよぉ。女の子はともかくいい歳したおっさんだぞ、いったいオレが何したって……」と口走る奴の焦げた尻を警棒で叩きあげ、悲鳴によって黙らせながら歩くこと数分。若干狼狽えた様子を見せる交番のおまわりに後を任せてしまえば、元々午後の警備担当となっていた東広場へと向かう。臨時のステージが組まれたそこは、冷たい魔法の霧が絶えず吹きあがって観客に涼をもたらすなか、喜劇役者による前座だけで既に大盛り上がりを見せており。受付で出演者情報の乗った色鮮やかなビラを貰うと、「ついでに何か腹に入れるぞ、」と近くの屋台を指し示しながら、どの店の賄いを貰うか相手に任せることにして。)
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