匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( じっとこちらを見つめていた冷たい鉄のような瞳が、金の睫毛に縁取られた瞼に覆い隠され、もう一度開いた時には曖昧に落とされている。ただ其れだけで、ギデオンのシェリーへの唯ならぬ感情を思い知れば、何も言えなくなってしまい。ギデオンの仕草に小さく頷き、静かに俯いてその背中を追って。「絶対温くならない魔法の水筒だよ」なんて、一日で切れるような氷魔法をかけたそれを、割高で売っている屋台の主人の声がやけに耳につく。建国祭の人出でギデオンの表情は窺い知れないが、ただ稽古を受けただけの相手であれば、こんなに丁寧に言葉を選んだりしないだろう。オニオンやアボカド、たっぷりの酢漬け野菜と一緒に、燻製されたサーモンとチーズを挟んだベーグルを受け取り「別嬪さんにゃおまけしといたよ」と、毒気なく笑う主人にお礼とともに曖昧な笑みを返せば、再びギデオンの斜め後ろを歩き出し。ギデオンの思いの種類は測りかねるが、少なくとも相手の大切な師を自身の出生とともに奪ってしまったのだと、昔からヴィヴィアンに隠れて酒を煽る父に幾度となく抱いてきたどうしようもない罪悪感が顔を出す。ギデオンは優しいからこう言ってくれるが、それはそんなヴィヴィアンに付きまとわれれば迷惑にも感じるだろう。ギデオンのはっきりしない突き放すような物言いに、最悪な形で今までの態度の意味を結論づければ、"いいバディ"として小さく笑い、努めて軽い調子で腰に手を当てる。今ばかりは流石に綺麗に笑えている自信はなかった。 )
── ……あはっ。
そうかも知れないですけど、一言でも言ってくれれば良いじゃないですか、水臭いなあ。
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