匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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本当に、私でいいんですか……?
( このキングストンに生まれ育って約四半世紀。この手の大道芸人による盛り上げ方を、ビビもまたよく承知しているが──いや、寧ろ知っているからこそ。今隣にいる高名で、世界一格好の良い、最高の魔剣士を差し置いて、自分が選ばれたことが納得いかないといった表情でおずおずと前へと進み出ると。それでも一応、今をときめく冒険者の端くれ、一般人向けに設置された的などお手の物だが……さて。偶然とはいえ直前のお父さんが射抜いてしまった以上、それだけではあまりに芸がない。よって、期待の視線を寄せる観客達の中、魔法使いの仮装をした少女を前へと引き上げると。彼女の杖の一振りに合わせて、ステージ中へとキラキラと星屑のような光を煌めかせ、それと同時に、事前に少女の希望を受けて宣言していた賞品を見事射抜いてみせてから、さっと大衆の面前から引っ込もうというのが最初の計画。しかし、そのそつの無い計画を狂わせたのは、見事に狙った的を射抜いたヴィヴィアンが、へにゃりと力の抜けた笑顔でギデオンの下へと戻ってきたその瞬間、分厚い群衆を切り裂いて「待って!!」とよく響いた、未だステージ上にいた魔法使い志望の少女の声だった。
それまで、やんやと楽しげだったざわめきが、にわかにすんと静まると、「私がほしかったんじゃなくて、ビビちゃんにあげたいの!!」という必死な声と共に、件の景品──もう一枚残っていた南部へのリゾート旅行チケット──を掲げた少女は、どうやら冒険者であるビビのことも、そしてその"公私共に最愛のパートナー"であるギデオンのことも以前からよく知っていたらしい。可愛らしいファンの素朴な好意、それだけにしては真剣な表情にはて、と首を傾げかけたところで、「"しんこん"さんは、ふたりで旅行へ、いくんでしょう?」とやられたところで、誰がそんな純粋な少女に、恥をかかせられたと云うのだろう。)
……ぁ、ありがとう、嬉しいわ、ね、あなた……?
( この時はまだ、数分後に覚えることになる焦燥やら、悪戯心などはまだ遠く。赤い頬をした少女の無垢な可愛さ。そして、──新婚さん、ですって。と、やむを得ず想像した幸せな未来の形に微笑むと。ちらりと隣の恋人と視線を交わし、わっと湧く歓声のさなか、大好きな掌を捉えてぎゅっと握って。 )
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