匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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お前だけが頼りなんだ、
(酷く驚いた様子の相手に、しかし真剣そのもののこちらは顔色ひとつ変えることなく。ひた向きな熱い視線で相手を焦がしていたかと思うと、振り上げられた細い手首を武骨さ極まる掌で捕らえ。ごく優しく握り込み、やんわり下ろさせてしまえたのは、こちらが上手く導いたのか、はたまた相手の娘の力が抜け落ちてしまったせいか。とにかく再び目と目を合わせて、もはや駄目押しの囁きを。──そうして相手が降参すれば、わかりやすく目元を緩め、穏やかに感謝を述べて。
とはいえ相手の言うとおり、例の碑文の贋作は、そもそも製作すること自体が倫理的に大問題。限られた時間の中でのみ使えるようにすべきだろう。真面目な顔で頷けば、「そうだな……」と顎に手を当て、思案を巡らせることしばし。ふと下げていた視線を上げて、もう一度相手を見ると、よし、というように顔色を凛々しく変えて。)
──三日だ。三日後の日没まで。
それだけあれば事足りる。
(──さてはて。デレクとカトリーヌのパーティーが幾日探しても見つからぬ、魅惑の幻・エメラルド碑文。それをこの手に取り返すまで、わずか三日で足りるなど、ギデオンの出した答えはまるで無謀もいいところだ。しかしこのベテラン剣士は、後輩ヒーラーの仕事の腕を心から信じ切っていた。ヴィヴィアンなら絶対に、今回のクエストを大いに前進させるほどのモノづくりをしてくれると。
それに相手の協力を得るなら、やはりその三日程度が精神的に上限だろう。元より無理を頼んでいるのはこちらのほうであるのだし、ならば相手に任せる分だけ、こちらがどうにかするべきなのだ。そうしっかり腹をくくって、「詳しい作戦は、今夜の宿に落ちついてからにしよう」と、一度話を切り上げる。馬車が途中駅に停まって、乗客が増えてきたからだった。
それからの道中は、深い森を幾度か過ぎて、当然道も険しくなった。その際、掴むものもなく揺れるヴィヴィアンの肩をそれとなく抱きかかえ、「しばらくは我慢してくれ」と言ってそのまま支えつづけていたのは、どうやら相手の協力を引き出せたことで、想像以上に機嫌が上向き、相手を手助けする思いがいつもより増していたせいらしい。……静かな車中、ごく寛いだ様子で車窓なんぞを眺めているのは、はたして朴念仁という語で収めていい範疇だろうか。
──それからさらに数時間後、その日の宿の女将に魔法鍋や薪の類いを借り受け。宿の裏手にある一角にようやく姿を現した時も、いつもよりやや気さくな様子で。)
……どうだ、材料は足りそうか。
鉱石が足りなければ、もう辺りも暗いから、俺が調達してくるが。
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