匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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…………。
(甘やかしちゃ“ダメ”、だなんて──しかもそれを、自分は正しく自覚できたとでも言わんばかりの表情で。先ほどまで愉快気に寛いでいたギデオンの面差しは、ほんの一瞬かすかに曇った。……あれは去年のいつごろだったか。『シャバネ』で聞き込みを終えた後、魔力切れで震える指を、彼女は必死に隠そうとしていた。あのときとどこか同じに見えるのは、はたして己の気のせいだろうか。
薄青い視線を外し、しばし思案を巡らせる。しかし数秒と経たずに、無言の手酌を注いで呷り。杯を置き、ひと息ついたその口で、相手をまっすぐ見つめながら、ごく静かな声を返す。「ああ、そうだな。“困る”、だろうな」。……しかしその目の奥には、文脈にそぐわぬような、優しい光が込められていて。)
……俺は、てっきり。そうやって困らせあうのが許される関係に、なれたものだと思っていたが。
おまえのほうは、違ったか。
……俺の勝手な、思い上がりだったか。
(そうして、相手の答えを待たずして手を伸ばし。絡め取った相手のそれを、卓の上にゆるりと下ろせば、ごくやんわりと、上から重ねる。今から交わすこの話は、ここだけの秘密にするとでも言いたげに──或いは、答えないなんてことは選ばせないというように。)
なあ。俺に、惚れた女の望みのひとつも知らない、なんて不名誉を着せるつもりじゃないのなら。せめてひとつだけ、気兼ねなしのおまえの“ワガママ”を聞かせてくれないか。
……知るだけなら、いいだろう?
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