匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( ああ、また迷惑かけちゃう──と、皮膚が擦れるのも厭わずに荒っぽく拭った目元に、暖かく遠慮がちな指を感じれば、一瞬驚き目を見開いて。身体の疲労に引きずられるように落ちていたメンタルが、ギデオンのその言葉だけで救われるようで、私はまだこの人の傍に居ていいんだと心の底から安心する。こちらから近付くとするりと逃げていく癖に、ビビが落ち込めば優しく触れてくる手に、いつもの温もりを感じることが出来れば、本当に帰って来れて良かったとますます涙腺は緩むばかりで。目元こそもう誤魔化しようもなく泣き濡らしながらも頭はどこか冷静に、こんな時ばかりビビの欲しい言葉を投げかけてくる狡さを持ち合わせているにも関わらず、ビビの涙なんかに動揺して揺れる瞳が可愛いなあなどと──可愛い?はたと自身の思考に気がつけば、今度は己が動揺する番で。ギデオンのことは憧れの冒険者で、強くて、格好良くて、間違っても可愛いだなんて感じる相手ではなかったはずだ。今日初めてしかと合った見慣れたはずのペールブルーの瞳に、顔に血が集まるのを感じれば、パッと後ずさるように立ち上がり「ありがとう、ございます……顔、顔洗って来ます!」と、己の五月蝿い鼓動から逃げるように部屋からも出ていこうとするだろう。 )
わっ、ギデオンさん……!
……シフトですね、聞きましたよ。ギデオンさんとご一緒できて嬉しいです。
( ──結局、グランポートといい、シルクタウンの時と言い、恥ずかしいところばかり見られているような、と診察の準備も終えて手持ち無沙汰になれば、思い出すだに恥ずかしい記憶が脳内を占めるのは誰もが経験あることだろう。そうして少し呆けていたから、ノックの音に気づかず現れた思考の主に思わず声をあげ。鼻歌、聞かれてたかな──と薄ら頬を染め、気を取り直して態とらしい咳払いをひとつ。ギデオンの目の前に、丸椅子を運んで自身も座りながら相手に向き直れば、相手の質問にいつも通りの様子でパッと顔を輝かせ。肩の診察の前に、雑談も交えながら自然な動作で相手を覗き込めば、悪くない顔色に密かに安心して。まさか今回のシフトにギルドマスターの意思が関わっているとは微塵も知らず、顔を覗き込んだ近距離のまま呑気に微笑めば、あざとく首を傾げて「これって運命だと思いません?」なんて、今日も今日とて好意を微塵も隠さぬ視線を惜しまず相手におくり。今回の2人は救護兼治警備部隊、というかビビは毎年そうである。平時であれば一般人相手であれば、怪我をさせないよう取り締まるのが定石だが、建国祭の間はあちこちでトラブルが起きるため、そうも言ってられない事態になることもままある。あけすけに言ってしまえば、いっそ怪我させてでも早く場を収めてしまえ、治療してやれば許されるだろう、という荒っぽい発想が透けている作戦だとビビは毎年思っているが、例年それでも大きな苦情が出ることはないのだから、祭りの雰囲気は偉大である。兎に角、その今年の警備のシフトを確認したところ、時間も担当区域もまるきりギデオンと被っていたというわけで。長時間かつ連日の警備とハードだが、1番休みの希望の倍率の高いであろう最終日の夜はシフトが入っておらず、それを見た時から心は既に決まっていた。ギデオンの右腕に指を滑らせて脈を取りながら、真っ直ぐに相手の目を見つめれば、あまりにも有名なおまじないに林檎のように頬を染め。ギデオンの手首を掴む細い指の震えが、初めてプライベートで誘う相手に、勇気を振り絞ったその真剣さをありありと物語っている。 )
……最終日、ご予定なければ一緒に花火見に行きませんか?
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