匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(田舎の港町で夜な夜な起こる、謎の連続失踪事件。それを解決してほしいという依頼者の悲願は、ギデオンとヴィヴィアンによる7日間の格闘の末、ようやく果たされることとなった。生贄にされかけた少年たちと夜も眠れずにいた家族の涙ながらの再会や、依頼者の青年も仲間入りした新トリアイナの輝かしい発足、ギデオンとビビの妙な噂を聞きつけた一般市民のシルクタウンさながらの興奮……と、新しい朝を迎えた港には平和な光景が訪れて。……しかし、グランポートにとって本当に大変なのは、むしろここから先である。ジェフリーらの帰還を待っていたトリアイナ残留組の逮捕、レイケルの息がかかった警察署員の炙り出し、これまでグランポート警察署が握り潰してきた数々の事件の再捜査、魔物ファーヴニルが喰らった行方不明者たちの遺骨の回収。卑劣な悪事が一気に明るみに出たからこそ、その余波はあまりに膨大だった。グランポート市長が出てくるのは当然として、グランポート議会、公認ギルド協会、地方警察本部、さらには魔導学院さえ調査に乗り出す事態に至り。一躍大人気となった地元新聞紙が市民の快哉を呼ぶ裏では、緻密な検証や地獄のような責任追及が幾多も繰り広げられていて。憔悴した様子のグランポート市長から、一連の事件は自分の招いた失態であると頭を下げられたうえで、「辞職前にせめてもの罪滅ぼしを果たさねば、亡くなった市民に顔向けができない」と事後協力を要請されれば、滞在を延長しないはずもなく。とはいえ、調査委員会からの事情聴取で何度も駆り出されるのには、流石に少々参ったのが本音。その際、自分はともかく、魔力切れで病み上がりに等しいヴィヴィアンを歩き回らせるのは……という考えが、一度は脳裏をよぎったものの。帰りの船でのやり取り、彼女のあの真剣な声を思い出せば、己の中でしっかり打ち消し、彼女本人にただ任せることにした。もう、二十年前に見かけたあの幼い少女ではないのだ。立派に身を立てているひとりの冒険者として、もっときちんと捉えなければ。──医者が往診にやってきたのは、ギデオンがそんな心境の変化を遂げたころのことで。)
……どういうことです?
(老爺から告げられた青天の霹靂に、ベッドの端に腰かけたまま、動揺と不可解の入り混じる顔をヴィヴィアンと見合わせる。わけわからんのはこっちなんですよねえ、と言いたげな溜息を漏らす医者が見せてきたのは、透過魔影と呼ばれる大きな白黒写真だった。魔法医学を修めた者のみが作り出せるそれは、灰色の肉や真っ白な骨格とともに、人体内部に宿る魔素を黒い粒子として写真に映し出せる代物。ギデオンの左肩には、まるで植物が根を張るような形の影が、確かに3つほど見て取れて。「これね、残留魔素。しかも、闇属性の中でも破壊作用に特化しまくったヤツなんですわ」そう説明する医者の顔は、悪意に満ちた魔法への嫌悪ゆえか、似合わぬ険しさをかすかに滲ませているようで。「術者の放った攻撃、非常に強力なんですよ。強力過ぎですね。仮に一度は取り払えても、体内にごくわずかに残った残り香レベルの魔素が、血の巡りによって少しずつ再生してしまう。そうしてある程度経った頃になって、もう一度ドカンです。しかも今度は心臓にも直通。つまり、次があればそこで間違いなく死にます。だけどこの魔素が、まああまりに特殊すぎてね。おそらく誰にも解析できない。唯一どうにかできる術者は死んでしまったとなると、こいつを完治させる術はこの世に皆無でしょう」……淡々と告げられた突然の余命先刻に、流石に一瞬呆然とする。しかし医者はふ、と目を和らげて、「本来ならば、ですけどねえ」と意地悪なタイミングの補足を。おもむろにヴィヴィアンの方に向き直ったかと思えば、「お嬢さん、アナタこの人にどんな治癒魔法を施したんです?」と、柔らかに相手に問いかけて。)
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