匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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ギデオンさんったら、さっきまで食べてたのに……ケバブは家に帰ったら作ってあげますから、今はハムで我慢してください。
──それとも、なにか賭けますか?
今回も私が勝ちますけど、ッ…………。
( 相変わらず隙のない様子で人をエスコートし、ゆったりと屋外の舞台を観察したかと思えば、次の瞬間。無駄に様になる表情で囁く内容がそれなのだから、思わず吹き出さずにはいられなかった。当時であれば、その整った容姿に誤魔化されていたろう雑談も、ギデオンが素でぼやいていることを知っていれば、今や食べ盛りの相棒がひたすら愛しいだけで。この半年ちょっとで、ねだれば何かしらの食べ物が出てくるようになったポケットから、お手製の燻製ハムを取り出し差し出しかければ。その可愛らしい意地悪の間合いは、明らかに目の前の相手からうつされたそれだ。ニマリと笑ってハムを引っ込め、態とらしくすました表情を浮かべかけたビビの顔にしかし、ぴく、と小さな苦痛が走る。二の腕の柔らかいところを拗られたような小さな、けれど確かな鈍い痛み。──2人の関係も知らずして、生意気な小娘に灸を据えてでもやったつもりだろうか。誰かの蛮行を隣の者も見えただろうに、低い背もたれから振り返ったところで、しらーっと視線を逸らす村民達に──余所者は自分たちの方だ、と。大したことじゃない、自分が我慢すればことが済むと、もし相棒に問いかけられたところで「なんでもない、大丈夫です」と首を振ったのが全て悪夢の始まりだった。
とはいえ、それ以外の雰囲気は和やかなままその劇は始まった。自然の帳を利用して、時折主人公らにあたる魔法の光は、ビビ達が知る一般魔法体系と同じ単純な構造のそれだ。内容も特にこのトランフォードでは珍しくない、昔この村で起こったという英雄による魔獣の討伐譚。討伐される獣が元々村の嫌われ者だったという点については少しグロテスクなものも感じたが、英雄が"良い獣"になって戦ったという話については、神話時代まで遡ればよくある話。成程、英雄が"良い獣"になるための薬が花ならば、この村が花を大切に育てる由来も分かると言うもので。舞台の幕が降りると、最前列で目を輝かせていたレクターが、早速隣の村長の1人を質問攻めにし始めている。他の村民達はのんびりとその場で談笑する者、祝祭の食事に戻る者、そのめいめい穏やかに過ごす雰囲気からは、この催しがそこまで格式高くない、素朴な物なのだと感じ取れるだろう。さて、そんな村民達とは違って、あくまで仕事中であるビビ達はこれからどうしようか。折角ならその美しい花もぜひ見てみたいところだが──と、劇前の囁かな事件などすっかり忘れて周囲を見渡し、ギデオンの腕を引いた娘がぴたりと固まったのは、その視界の先に先程宴に誘ってくれた女性を見つけたからだ。隣にいるのは夫だろうか、先程の娘たちとよく似た金髪の──中年、否。既に初老に近い男が女の腰を抱くと、当然のようにその顔を長く、激しく引き寄せたのを目の当たりにすれば。ギデオンの方へとぱっと逸らした顔は、恥ずかしそうに赤らみ、形の良い眉を困ったように八の字に歪めていて。 )
──っ、あ、うう~っ……この村の人達って、距離感が……ごめんなさい、慣れなくって……
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