匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
通報 |
(予想だにしない強い語気での反論、その真剣さに、最初こそ驚いた顔をしたものの。いわば一人前の冒険者としての彼女の責任能力を軽んじるような、お門違いの物言いをしてしまったのだと理解すれば、さっと顔色が悪くなり。反射的に喉元まで詫びが出かかるが、それでは同じ過ちを繰り返すような気もしてしまうものだから、間近に鉢合わせていた顔を逸らしての居たたまれぬ無言に陥る。……相手のことは、仕事仲間として好ましく思っているのだ、関係の悪化は避けたい。何と言って挽回すべきだろうか、そう思案しかけたところを、少年たちの無邪気な暴露がすべて吹っ飛ばし、こちらも「は?」と振り返って。もろに焦っている若い記者、キャッキャとはしゃぐ少年たち、こちらとチラッと交差させた目にありありとした(やっべ)を浮かべる記録係、その長身で慌てて立ち回るヴィヴィアン、危うげにオールを漕ぎながらもはや露骨に嘆く操舵手。にわかに騒然としはじめる船上の風景に、島での戦いとはまた別種の疲労感がどっと体を重くするのを感じ。背中を船に預けながら、少しだけ現実逃避しようと横に視線を投げかかて──それに、気がついた。「……おい、」と仲間たちに声をかけつつも逸らさない視線の先には、白く明け染めた東の水平線の上、一層の立派なガレオン船がいつのまにか浮かんでいる。まるで蜃気楼のように幻想的に揺らめきながらも、月光の中で観たあのおどろおどろしい異相ではなく、白く美しく輝いているのが遠目でもはっきりとわかって。潮風を受けてしっかりと張った帆も、進行先を突くまっすぐな船首も、まるで在りし日の華やかな、誉れに満ちた豪華客船のそれだ。朝日を背に受け影になった船は、ゆっくりとこちらを向き、一度だけさらに強く輝くと、空と海に溶けるようにしてその姿をかき消した。……あの船なりの、別れの挨拶なのだろうか。しばらく黙って青い波間を見つめていたが、そばに飛んできた海猫の鳴き声に我に返ると、ふとヴィヴィアンの方を見あげ。胸に落ちてきたその思いを、「……そういや、あの時に伝えられてなかった」と穏やかな声で告げて。)
……助けてくれて、ありがとうな。
トピック検索 |