匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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──はいっ、任せてください!
( 尊敬してやまぬ相棒に、久方ぶりに仕事を任せてもらえて、娘の横顔が酷く誇らしげに光り出す。それでも、この一刻を争う事態の中で、力なく項垂れる槍使いを目の前にして、「大丈夫、皆で探せば絶対見つかりますよ!」と、走りながらも穏やかな笑みを向けずにいられないのは性分だろう。折角、不慮の失敗の原因を追求するという嫌われ役を、ギデオンさんが引き受けててくれたのだ。それぞれ二方向へと向かう別れ際、両拳を顔の横でぎゅっと元気に引き結び、にこりと相手に微笑みかければ、丸まっていた男の背中が微かに伸びたような気がした。──大丈夫、彼とて今回のクエストに選ばれた優秀な冒険者のはずだ。少なくとも、その人の良さは道中でとっくに知っている。きっと、誰より熱心に誠心誠意、己のミスを挽回するだろう。そんな別れ際の数秒で、仲間を鼓舞するヒーラーとして、最大限の力を発揮すれば。その数秒後には、ひらりと赤いマフラーを翻し、石垣を飛び降り遥か下へと消えて行き。それから数分後、エデルミラを連れたギデオンが戻る頃には、前衛後衛バランスよく、今後の交代シフトまでをも考えた完璧な布陣で、捜索開始の指示を迎えただろう。
しかし、そうして始まった捜索は、とても順調とは言い難かった。槍使いの誠実な証言を元にして、エデルミラとギデオンが割り出してくれた捜索範囲は、目を見張るほどの精度だったが。そもそもの面積が大きい上に、これはレクターが動けなくなっていた場合の想定だ。彼自身が興味深いものを前にして、突飛な動きをするのは周知の事実で、そうでなくとも魔獣に追われていれば分からない。もうずっと大きな手がかりを得られないまま、刻々と捜索範囲は広がって行き、ふと睫毛に落ちた白い氷に、うっそりと疲れた視線を夜空に向ければ。最早、魔獣避けや目印に、出立前に焚き付けてきた聖火は随分遠く、目の前に広がる巨大な岸壁と一緒になって、冒険者の心を苛むようで。兎にも角にも、物理的な行き止まりに──ごく一部の冒険者にとっては、踏破可能かもしれないがレクターには無理だろう──焦燥の滲んだ顔でギデオンを見遣れば、高山にして豊かな下生えを踏み、来た道の方へと引き返そうとしたのも詮無いことで。 )
ここを、登る……のは、難しいですよね
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