匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……、
(ヴィヴィアンが示してきたふたつの選択肢を前に、ギデオンの瞳が揺れる。その物言いこそ恣意的であれど、最終的にはギデオン自身に委ねてくれているものだから。思考停止したように、ぎこちなく固まりながら。困惑したように目を細めたり、躊躇いがちに薄く口を開いたり。相手に一歩近づこうとしたか、或いは背を向けようとしたか……どちらともつかず身じろぎしては、再び根が生えたように立ち尽くす。その様子はまるで、迷子になった子どものようだ。
──別に、大した話ではない。ここにあるソファーで眠るか、上階のベッドで眠るか。ただそれだけの、ごく些細な、暮らしのなかにありふれた二択を迫られているだけのこと。仮に独り寝を選ぶとして、相手の言うほど寂しい話でもないと、ギデオンは今も本気で思う。今夜は冷えると言ったって、今はこうして上半身裸でいるように、毛皮のおかげで軽く凌げそうであるし。それにもし、抜け毛がデュベに絡みつけば、洗濯の手間が生じてしまうはずだ。単に面倒なだけではない、それだけふたりの時間が減ってしまう……のんびり寛ぐような時間が。なら、余計な家事を減らすに越したことはない。であるからして、単に合理的に考えただけ。状況に合う方法を選ぼうと思っただけだ。それを実際、躊躇いがちに口にする。自分に言い聞かせるように。
けれどそれでも、それを押し通すまではいかない──ヴィヴィアンの問いかけのせいで、何かがぐらついてしまっている。飼い主の元にすぐ駆け寄れない犬のように、ギデオンはまだしばらく、「……」と静かに硬直していた。耳も尾も、ぴくりとも動かない。酷く頼りなげに揺れ動くのは、アイスブルーの双眸だけ。……ソファーか、ベッドか。その二択の間に横たわる、目に見えない、小さいけれど深い溝。それを飛び越えるのが──欲を出すのが、怖かった。それに慣れていないから。否、この半年で素直に貪欲にやってきたつもりが、まだまだだと教えられて、大いに狼狽えてしまっているから。
……目の前の、ヴィヴィアンを見る。優しいエメラルド色の瞳。ギデオンの答えを待ち望んでいる瞳。──ふたりで過ごすほうが、より幸せになれるとしたら。貴方はどうするの。どちらのほうが、良い答えだと思うの。その問いをもう一度、胸の内で聞いたならば。)
…………。
(……やがて。ごくおずおずと、未だ躊躇するように、尾の先を脚の間に仕舞いながら。それでも一歩踏み出して、相手に身を寄せ、唇を近づけ。「聞き方が狡いんだ……」と、参ったような囁きを落とす。耳はすっかり垂れているし、けれどもそのふさふさのしっぽだけは、相手が優しく触れてきたなら、またゆらゆらと、本人の素直な感情をバラしてしまうことだろう。──ああ、くそ、と。至極決まり悪そうに、悔しそうに、ふたりにとって意味ある言葉で言い返しながらその白い手をそっと絡め取り、すべらかな肌を親指の腹で撫で。まろいおでこに、すり、と鼻梁を擦りつける。──誤魔化しようが、なさ過ぎた。)
俺がこんな風になってくのは、完全に……お前のせいだ。
……責任は、取ってもらうぞ。
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