匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(獣に成り下がる魔法というのは、かかってしまった本人を随分素直にするらしい。それまでのわかりやすすぎる不機嫌はもちろんのこと──そこから一転。愛しい恋人から存分に、慈愛たっぷりに構って貰えば、それからのギデオンは、いともすんなり大人しくなってしまった。床に当たり散らしていた大きな尻尾は、ふわ……と静かに動かなくなったし。真後ろに倒した耳も、ぴくぴくしながら立ったかと思うと、やがては心地よさそうに、今度は真横に寝転ぶ始末。険で尖っていたはずのアイスブルーの双眸も、長い長い口づけからようやく顔を離した後には、とろりと穏やかに凪いでいて。そしてその眉間にも、鼻梁にも、皴はすっかり見当たらない。寧ろ完全に、あどけなくなったとすら思うような顔つきである。
故に、相手に促されれば。再三差し出された肉団子に、ぴくん、と反応し、しばしぼんやり見つめた末。その(無駄に良い)顔を寄せ、軽くその匂いを嗅いで──そこじゃなかろうに、まずは相手の細い手首をぺろぺろと舐めてから。そのまま相手の掌に顔を付す形で、ギデオンはごく従順に、団子をはぐはぐ喰らいはじめた。その様子は傍から見れば、逞しいベテラン戦士が、膝上に抱えた乙女に餌付けされている光景なのだが……幸いここは柱の陰。故に安心しきった様子で、いつもは見えない犬歯をちらと覗かせながら、ひと欠片も残さず平らげる。そうして口の周りをぺろりと舐めると、ほんのちょっと顔をしかめ、「……確かに美味いが。やはり苦いな、」なんて、子どもっぽい感想を。それから、胃が動き出すまでのもうしばらくは構わんだろうと言わんばかりに、膝上の相手を抱き直し。再び肩口に顔を埋めたその下、ベンチの隙間から見える尻尾は、すっかりゆらゆらと心地よさげ。──いつものギデオンなら即もたげるだろう、不埒な類いの欲望も、しかし。動物化がまだ抜けず、おまけに彼女手ずからものを食べさせてくれた今となっては……何と完全に、純然たる食欲と甘えたさに負けたようで。)
……褒美……褒美は……お前の美味しい料理がいい。
今年のクリスマスは……お前の焼いたチキンが食べたい。ふたりで、家で……ゆっくりしながら。……いいだろう……?
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