匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( ふわりと身体が浮いた感覚に、吐き気が込み上げてうっと口を抑える。焦点の合わぬ目と限界を迎えた身体では、今自分がどのようにギデオンに抱えられているのかさえ分からない。魔力切れを起こした時は、決まって己の無力さだとか、嫌な思い出だとか、最悪なもの全てを詰め込んだような悪夢を見る。それが嫌で、普段であれば意識を保とうと悪足掻きをするのだが、ギデオンの『大丈夫だ』という言葉だけがやけにはっきりと聞こえた瞬間、糸が切れたかのように強ばっていた身体からふっと力が抜けた。ギデオンさんが言うなら本当に大丈夫なんだ、私が心配することなんて何もない──心から安堵して血色のない顔に薄く笑みを浮かべると、ギデオンへの揺るぎない信頼を表すように、その逞しい腕にかかる重さは意識がない人間特有のそれに変わった。)
ひっ……おは、おはようござい……ファーヴニルは!?
( 魔力駆動船特有の低く規則的な音の中に、水の魔素が弾けるキラキラした音が微かに混ざる心地よい音を感じて意識を浮上させれば、瞼から差し込む眩しい朝日に睫毛を震わせる。ゆっくりと開いた視界いっぱいに意中の相手の顔を捉えると、寝起きの顔を至近距離で見られた動揺に小さく声をあげたのは純粋な乙女心。パッと片方の手のひらで顔を隠しかけ、一瞬遅れて意識を失う直前のことを思い出せば、上半身を勢いよく起こそうとしてまだ残る疲労に顔を歪め「あ……逃げきれた、んですね。あんな時に意識を失うなんて、ご迷惑おかけしてごめんなさい」と、危険な場所で意識を失うという"冒険者として"有るまじき失態に、先程出しかけた片手の甲を悔しそうに己の目の上にあてて。 )
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