匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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──……ッ!
( ──撤退! 撤退ッ!! ギョロリとこちらを一斉に振り返ったドラゴンに、ビビのいる右舷が急激に騒がしくなる。怒号の如く上がる指示に、退路を開こうとバタバタ走り出す戦士たち。しかしその瞬間、ビビの中に浮かんだ感情は微かな、しかし確かな苛立ちだった。やけに興奮した表情の頭と、ギラギラと浮き沈みする眼状紋が向けられると同時に、何股にも割れた首の根元に輝いた紅い魔核。やっと見えた弱点を目の前に、自身の実力を過信せず退却出来る観察眼もまた大事な資質ではあるのだが──今此処に居るのが経験も若いこの青年ではなく、ビビの相棒たるギデオンだったなら……! と、真っ直ぐにドラゴンへ向け跳んでいくだろう紫電を、思わずにいられなかった瞬間だった。
遥か遠くから響く、頼もしく大好きな張り慣れた声。その声に込められた信頼に、「ギデオンさん!」と、場違いな程嬉しそうに応えれば、自然と身体が走り出していた。ビビが脳内で描いた"理想の道筋"をなぞるように動く相棒に、相手の意図が手に取るように目に浮かぶ。魔法使いが浮かせた足場を戦士が選ぶのでは無い、ギデオンが跳んだ先、ヴァヴェルの炎を避けた足元に、まるで吸い付くかのように後から足場が組み上がり。己の身の丈の数倍以上はある空中を、まるで地上の如く駆け上がったギデオンが勇ましく魔剣を振り上げたその瞬間。突如、その頭上に黒い雨雲がかかったかと思うと、エメラルドの稲妻が魔剣を穿き、周囲の目を眩ます程の光となって、壮年の戦士がドラゴンの首を一刀両断する光景を焼き付けて。
そうして残ったのは、ヴァヴェルの倒れる轟音と、黒い雨雲がポツポツと地を穿ち、次第に激しい雨となって冒険者たちに降りかかった血の飛沫を洗い流す雨音のみ。未だ信じられないものを見たかのように、胸を上下させる冒険者たちの耳にまず届いたのは、ドラゴンと共に地上へ降り立った相棒の下へ駆け寄るヒーラーの足音で。あまりに自然な動きだったものだから、つい失念していたが、ギデオンが放り出された上空は、羽のない人間が無事でいられる高さではなく。その着地の際、咄嗟に風魔法で衝撃を緩和はしたものの、果たして怪我などはしていないだろうかと、真っ青な顔で駆け寄って、 )
ギデオンさん!!
ご無事ですか!? 強く打ったところは……?
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