匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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──……ギデオンさん。
ご心配ありがとうございます。私は大丈夫ですから、他に言い出し辛い方がいないか確認してあげてください。
( 白くはためく博愛のローブに、しっくりと馴染む古木の杖。久方ぶりの一張羅に背筋を伸ばせば、リスト片手に物資確認をしていたところへ、心配性な相棒の声がかかる。これがかつてのビビならば、そう簡単に"代わり"だなんて侮ってくれるなと、相手の気持ちも気にせず跳ね返ったに違いないが。この一年で、他でもない当の相棒から、冒険者として、人として、認められ求められる経験を与えられた女の顔には、穏やかな余裕がほころんでいる。
確かに未だ医者からは、定期的な診察を求められているものの、それも最近は殆どただの経過観察にほど近い。過保護な相手の心配する気持ちはありがたいが、自らの故郷の有事に引き下がる冒険者がいるものか。それに──それ、私にだけじゃなくて、他の仲間達に全員も聞けますか、と。完治していないのはギデオンの肩も同じ。常に死と危険との隣り合わせ、中小の怪我が日常茶飯事な生業で、完全な健康体で一切の不安を抱えていない者など、この場の何割もいるだろうか。そんな状況下で、ビビ一人の代役なら兎も角、全員分の代案があるのかと──別にビビ自身はそこまで深く考えていた訳では無いが、無意識に相棒の過保護をやんわりと諭せば。「それに、こんなに見張りがいてどうやって無茶するんですか」と苦笑気味に見回したのは、ヨルゴスにつけられた戦士たち。いくら魔法使いよりは人手があるとはいえ、誰の差し金か手厚くつけられた護衛の一人が、「見張りじゃないですよ! ちゃんとお守り致します!」と噴射するのに眉を下げると、自分の身くらい自分で守れるのに……と肩を竦めて見せて。
かくして、最早怒号に近い音頭をあげ、ドラゴン侵入の報せがあった国境付近へと、討伐隊が出立したのと。とある報せがギルドに舞い込んだのは、完全な入れ違いとなった。その情報を持って来たヒーラーは、青い顔して駆け込んでくるなり、手薄になったギルドを見て膝を落とすと、「パチオ氏が……パチオ氏が、病室から失踪されました……!!」と、閑散としたロビーに響いた悲鳴だけが、この後の混沌を虚しく物語っているようだった。 )
( 可哀想に、大魔法使い直々に眠らされ、要人を見逃した張本人となってしまったヒーラーからの一報が、討伐隊に届けられるよりも少し早く。ドラゴンが国境へと侵入した時刻から逆算された地点にて、討伐隊はドラゴンの姿を確認出来ずに、そこから更に10km程も北上した地点でその姿を確認することとなる。ぬらぬらと強烈な色を反射する硬い鱗、ひとたび掲げれば太陽を隠すほどの広い翼。見るもおぞましい多頭はそれぞれ鋭い牙とギョロリと大きな眼球をたたえて、討伐隊を確認した途端、鼓膜が破れそうな大音声で地面を震わせる。
しかし、そんな醜い姿かたちを目の当たりにし、誰からともなく「化物……!!」と、それを漏らした声の主が、もし魔素を感じ取れる魔法使いだったならば。それは異形の魔獣へではなく、その正面にもうひとり。もうもうと上がる土煙の中から現れた男へ向けられたものだったに違いない。振り下ろされた太い尾を魔法でいなして、一頭と一人、化物同士の衝突に開けてしまった森の中。差し込んだ光に、現世のものとは思えない美しい金髪を反射する大魔法使い──ギルバート・パチオその人だ。防戦一方とはいえ、圧倒的な力を誇る魔物相手に立ち回って見せた大魔法使いは、相手の雄叫びに一足遅れて討伐隊に気がつくと。「これはこれは……流石、"国内最高ギルド"の精鋭様方、お早いお着きだ」と。こんな時まで憎たらしい悪態をつきながら。ドラゴンの大音声で、馬車の行き先の地面が崩れ落ちそうになるのを、杖を振るって受け止めようとして、その隙をついたヴァヴェルに横凪に吹き飛ばされる。その瞬間、それまでギルバートによって制御されていた魔素がぶわりと爆発したかと思うと。ぐらりと大地が揺れ、低い地響きが耳をつき、ビキビキと激しく地面が割れる。そうして、勝鬨の如く咆哮を上げたドラゴンは、小癪な魔法使いを片付けたことを悪辣に喜ぶかのように、太い尾を激しく地面に叩きつけると、車輪が外れ横転した馬車から飛び出した冒険者たちを威嚇してみせ。 )
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