匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(てっきり、悲鳴を上げながら飛びのいた後は、「人が心配してたのに!」とぽこすか怒るに違いない、そう踏んでいたものだから。首の後ろを掻きながら気怠げに上半身を起こしたギデオンは、相手のいやに艶めかしい姿から、ごく自然に、さりげなく、ここに紳士極まれりといった具合に、その端整な顔を逸らしてみせた。──だからまさか、向こうから甘い唇を寄せてくるとは思いもよらず。目を大きく瞠り、離れていった相手を唖然とした顔で見下ろして。そうしてひとしきり間抜けな硬直を晒していると、己の恋人はあろうことか、ギデオンの愚直なそれに関心を寄せ──酷く淫らに、強請ってくるのだ。一瞬、飛んだ。思考が。宇宙に。)
────…………
(真っすぐにかち合う、呆然としたターコイズと、意志の強いエメラルド。爽やかな朝陽が窓辺から降り注ぐ、全てが明るい寝室で。どこからかカラドリウスの鳴き声がチュリリリリと聞こえてくる中、話題のそれを真ん中に挟み、男と女が無言でじっと見つめ合う有り様は、実に妙ちきりんである。……これが夜の寝しなであれば、ギデオンは然程迷わず、促してみせたのだろう。閨事への一歩として、また自身の素直な欲望に従って、相手の興味の赴くがままにさせてやったことだろう。しかし今は朝、健全なる晴天の時間、これから一日が始まろうという至極大事な出だしであり、ついでに言えば……というか、そういえば仕事前だ。それを恋人可愛さで台無しにすることを、ギデオンの強靭な理性、もとい鉄骨の逃げ回り精神が、良しとするはずもなく。)
──、“ビビ”、その勉強は後だ。
朝食を作るから、下でシャワーを浴びてこい。……お前のほうこそ、俺のせいでどろどろになってただろう。
(はたして昨夜の名残だろうか。普段は呼ばない相手の愛称を、今度は明らかに子ども扱いする文脈で呼びながら、戒めるような声音で、ぶっきらぼうな命令口調を。しかし、最低で余計な一言をわざわざ付け加えたのは、はたして相手への揶揄いか……或いは、単なる天然によるだろうか。いずれにせよ、“それ”はなしだとはっきり態度で示すように、広い背中を向けながら寝台を降りようとして。)
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