匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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──……。
……ゆっくり、進めていこうな。
(温かく握り込まれた掌が、そっとそこへ──彼女が愛おしげに撫でた、神聖な場所へ──寄り添うように宛がわれ。一瞬呼吸を忘れたギデオンのまなざしに、ヴィヴィアンの熱がふっと移る。“無理をしていたかも”と大人しく認めた彼女に安堵して、“やっぱり今夜はこのまま眠ろう”、そう促すつもりでいたというのに。こんなにもいじらしく、こんなにも控えめに、それでもギデオンを渇望する……そんな小声を聞いてしまえば。さすがにもうこれ以上は、ギデオンのほうこそ無理をしていられない。
瞼を閉じ、その甘い栗毛に顔を埋め。穏やかな声で返しながら、絡めた相手の掌越しに、すべらかな腹をふわりと撫でる。薄青い目を静かに開け、もう一度相手の視線を絡めとれば。互いの目つきは、ぼんやりと甘い。呼吸も自然と溶け込んで……おそらく鼓動すら、同じ速さでトクトクと打っているのだろう。最早言葉で語らずとも、互いの意志は充分に伝わった。どちらからともなく顔を近づけ、互いの唇を溶け合わせる。絡めたままの掌が、ひそやかに、しめやかに動く。ベッドを覆う白布が、幾筋もの皴を描きだす。
──……最愛の不慣れな娘にゆっくりと手ほどきするのは、ギデオンの想像以上に満ち足りた時間だった。最初のうちこそヴィヴィアンも、まだ恥じらいを捨てきれずに、身を捩って逃げがちだったが。「……ずっと気になっていたんだが、このランジェリーはどうしたんだ?」なんて、白々しいほど明るい声で尋ねたり。猛抗議を喰らってしまえば、くっくっと笑いながらも、ご機嫌とりに抱きしめたり。そうして楽しく戯れながら、合間に妖しい愛情表現を差し挟んでいるうちに。……いつしか互いの顔も吐息も、夜の褥によく似合う、艶やかな色を帯びはじめる。
膨らんだ半月が窓の外へ出て行くまでに、彼女に数回ほど夢を見せた。初心な恋人は少し前まで、自分の身に起きた変化を俄かには信じられず、パニックに陥ってすらいたはずだ。それを思えばかなりの進歩で、本当ならこのまま、もう少し踏み込みたいところだが。──今日は、朝からいろいろあった。夜の話では二回も泣いて、体力も削れているだろう。これ以上深く追い求めたところで、キャパオーバーを押し付けてしまうだけとなる可能性が高い。そう引き際を弁えて、息の荒い彼女に顔を寄せる。汗の浮いたまろい額に、労わりのキスを贈りたかった。
このとき初めて、己の息も僅かながら浅いのを自覚し、自嘲気味に苦笑する。……これでもそれなりに、理性を保てていたはずだ。抑制剤を服用しているおかげで、我を忘れてしまうことなく、ただただ奉仕に徹していられた。……だが、もし薬を飲まなければ。もしもこの、薄い膜を張ったような感覚なしに、恋人の姿を直視すれば。そう思うと、やはり末恐ろしいものがある……つくづく自分を野放しにできない。無論、いつかはただありのまま、彼女と睦み合いたいのが本音だ。だが今はまだ、その時ではない。ヴィヴィアンには慣れが必要で、慣れにはどうしても時間がかかる。先を急ぎがちな彼女本人にも、そこのところはわかってもらわなければなるまい。ギデオンはヴィヴィアンが大事だ──決して、事を急いての過ちは犯したくない。
……けれど。今夜自分は、「忘れられなくしてやる」と……消えない証拠をくれてやると、愛しい恋人に約束したのだ。捧げられるままに純潔を摘み取ることは叶わずとも、せめて何か、代わりの何かはないだろうか。そう考えてふと、ヴィヴィアンの白い肌に目を走らせる。今夜のギデオンはそこに何度か唇を寄せていて……それでふと、思いついたのだ。「ヴィヴィアン、」と、まだ存外湿り気の残っていた声で、そっと恋人の名前を呼ぶ。「……キスマークは、知ってるよな」と。その単語を口にして初めて、今からしようとしていることの、あまりもの年甲斐のなさに、多少の恥を覚えたらしい。とはいえ、拭いきれぬ欲を孕んだ声音で。相手の耳に唇を寄せると、薄い腹に手を乗せながら、そっと相手に伺いを立てて。)
……今夜はまだ、ここまでしかしてやれないが。約束通り……おまえに痕を残したい。
二、三日か、長くても1週間ほどで消えるだろう。それでもきっと……俺たちの関係の、証になるようなものだ。
少し、痛むが……耐えてくれるか。
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